「新たに試作車として名を改めた試作車」JR東日本 E231系900番台 珍車ギャラリー#189

「新たに試作車として名を改めた試作車」JR東日本  E231系900番台 珍車ギャラリー#189

試作車であること(900番台)を名乗った電車が普通の車両としてその名を改めるのは珍しいことではありません。
当ブログでも かつて 「JR東日本401系-クハ401-901→101」をご紹介しました。
しかしその形式そのものから改められ、新たにまた900番台を名乗るという電車が存在するのです。
E231-900番台です。彼らはもともと209系950番台を名乗っていました。
950番台っていうのも妙ですね。
まずは彼らが最初に背負った形式=209系についてお話しましょう。

209系は901系をベースに造られたJR東日本の主軸となる通勤用電車です。
901系では「軽さ半分。寿命半分。価格半分。」というかつてないコンセプトの試みをやってのけたわけですから気合いが入ってます。
901系は 900番台をもつ試作車系列なのですが試作車ではあっても堂々たる10両編成。
それもそれぞれ仕様の異なった3編成が存在するという。総勢30両に及ぶ試作車系列です。
これだけの量で大がかりな運行実験を長期にわたってするJR東日本の凄さにはホント。圧倒されます。

さてその成果をもとに満を持して1993年から量産されたのが209系0番台ということになります。
京浜東北線をはじめ首都圏の新たな顔として活躍しました。
とはいえいつまでも主役を演じ続けることはできません。
技術の進歩に即応すべくあえて寿命を半分にするというコンセプトに照らしても  初期に造られた209系がその寿命を迎えるというその時機になってまだ209系を製造しているということでは格好がつきません。
209系も使ってみていろんなことが分かってきました。
ここらで新機軸を打ち出した車両を開発せねばならないのは当然といえば当然です。

そこで新たなコンセプトを採り入れた試作車となるのが209系950番台です。
950番台という妙な数字についてその種明かしをしますと前述の901系が量産車改造されたとき209系900番台を名乗ることになったからです。要は番号の重複を避けたにすぎません。
さて209系950番台の動力性能は  と申しますと最高速度120km/h、起動加速度2.5km/h/s、歯車比7.07 となっており
通勤形電車である209系(最高速度110km/h、起動加速度2.5km/h/s、歯車比7.07)の加速力を維持しつつ、
近郊形電車であるE217系(最高速度120km/h、起動加速度2.0km/h/s、歯車比6.06)の最高速度を達成しています。
従来の発想では通勤用車両は最高速度は抑えてその分トルクをアップし高加速、高減速を重視するものと考えられていました。
対して近郊形は最高速度で長く走ることを重視しなければならないということになります。
しかし21世紀の鉄道車両に求められたのは 都心部にあってはこまめに乗客を集めながらも高加減速で運行時間の短縮を図り、同時に
乗換を強いることなく120km/hという高速度で一気に郊外へと乗客を運ぶ…という通勤形車両と近郊形車両の双方に課せられた課題を
それも、コストを抑えながらも高いレベルでともにこなせるパフォーマンスです。

これを可能にした209系950番台は凄いのですが 数値的にはJR西日本の207系(最高速度120km/h、起動加速度2.7km/h/s、歯車比7.07)が既にこれ以上のことをやっています。
むしろ209系950番台で特筆すべきはTIMSという列車情報管理システムが導入されたことです。

1990年代後半、電車に搭載された各種機器の構成はますます複雑になりデスクトップパソコンの裏側と同様 見えないところにコード(引き通し線)がそこかしこに張り巡らされるようになりました。
なんとかこれを整理したい。簡単に言えばそれがTIMSです。
力行・ブレーキ指令はもちろん、室内灯、放送、空調、ドア開閉やパンタグラフ上げ下げ等々にいたるまで、あらゆる指令がTIMSを介して行われるようになりました。
これにより機器毎に独立して配線されていたコードは数本のTIMSのコードに置き換えられスッキリしました。
このことで軽量化をはかり、いっそうのコストダウンを推し進めたわけです。
また TIMSにより各機器の動作状況を1ヶ所のモニターで集中管理できるようにもなったのも大きなメリットです。
このことで車両の点検作業が自動化され一目瞭然となったわけです。
保守作業のみならず 運行の引き継ぎにあってもスピーディにチェックできるようになりました。

950番台がデビューした(1998.10)そのすぐ後、209系500番台がデビューします(1998.11)。
冒頭の写真を見て頂ければおわかりのように姿カタチはそっくりです。
ですから209系500番台は 209系950番台の量産車に見えます。
しかし その足回りは209系0番台そのもので0番台の広幅車といっていい存在なのです。
対して 209系950番台は単に900番台に50をプラスしただけではありません。
コンセプトはもう一つ先の次世代にむけられていたのです。
その基礎固めをしたのが209系950番台と申せましょう。

次世代車両への課題を明確にしたJR東日本は209系950番台に新形式E231系900番台を与えました(2000.6)。
外見だけでなくその中身にそのコンセプトに思いをはせる この改番は納得がゆくものです。

「でもそれなら 最初からE231系900番台でもよかったんじゃない。」
とは彼女の声。

-鉄道車両写真集-
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参考文献;鉄道ピクトリアル 「新車年鑑1999年版」No676 1999.10 No727 2003.1

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