「電機子チョッパの路面電車」 広島電鉄 800形 801 珍車ギャラリー#443

「電機子チョッパの路面電車」 広島電鉄 800形 801 珍車ギャラリー#443

800形(2代目)は 700形に次ぐ市内線用電車です。
14年にわたり14両 製造されました。 いずれもアルナ工機製です。
(83年製:01.02 87年製:03、04 90年製:05~08 92年製:09~12 97年製:13.14)
2025年現在 連接車を除けば最も車両数の多い形式です。
1000形の増備が進んでいる市内線でも800形は主力ともいうべき車両で おおよそ珍車というにはふさわしくない気すらします。
にもかかわらず私が珍車として推すわけは800形が「電機子チョッパ制御の路面電車」であるということです。

電機子チョッパ制御は「サイリスタ」という半導体を用いたチョッパ装置により主回路のON/OFFを高速切替えすることでモータのトルク制御を行うものです。
従来の抵抗制御方式は抵抗を順次短絡することでモータのトルク制御を行っていました。
抵抗制御では電力の一部を抵抗器で熱に変換することになるため損失が大きいのが欠点でした。
電機子チョッパ制御であれば こうした力行時の損失が低減できます。
加えて回生ブレーキによる電力の有効利用、機械式接点の削減によるメンテナンスの省力化、制御精度の向上によりなめらかな加速といった様々なメリットが謳われました。
ただ電機子チョッパ方式では高価なパワートランジスタを用いるため製造コストがべらぼうに高いというデメリットもあります。

チョッパ制御方式はトンネル内での排熱に悩まされていた営団地下鉄(現:東京メトロ)でまず採用され1969年6000系試作車がデビュー、1970年から量産を開始しています。
経営難だった国鉄でも省エネ性能を謳うことで201系が1981年から量産を開始しました。
路面電車では広島電鉄3500形、長崎電気軌道2000形が1980年にチョッパ車として登場しています。
ただこれらはいずれも車両にかかわる国内メーカー各社が参加した「軽快電車開発委員会」のプロジェクト実証試験車として製造されたものです。
鉄道事業車の実態に沿ったものとはいえず早々に第一線から退いています。

路面電車で今も活躍している電機子チョッパ車は広島電鉄800形のみです。
1次車である801は 1983年製。3500形が製造された3年後です。
同時期に製造された700形2次車(吊り掛け駆動車)のモータ出力 52kw×2。
60kw×2にパワーアップされた800形は次世代のエースとして増備が待たれたに違いありません。

ところが800形2次車が増備されるのは1987年です。
1985年に700形3次車(カルダン駆動車)が製造されたより後で4年間の空白があります。
3500形試作車とは違って先行量産車という位置づけだったのかもしれません。
それにしても長すぎます。
800形は3500形と同じく回生ブレーキを採用しています。これが問題だったのかもしれません。

ここで回生ブレーキについてお話しします。
モータは電動機であり かつ発電機でもあります。
発電機として利用する場合、走行している運動エネルギーを電気に変換しブレーキ力とします。
車軸が高速回転していれば高電圧を維持することができ架線に電気を返すことができます。
しかし回転力が落ちれば電圧は降下し 抵抗制御車(たとえば阪急2300系)では40km/hくらいで電気を返せなくなっていました。
つまり回生ブレーキは失効してしまうのです。
チョッパ制御では回路内に一時的に電流を蓄えつつ発電機として使用しているモータに再び送ることで電圧、電流を高めることができます。
ですから抵抗制御車より低速でも効率的に回生可能となりました。
ただし、回生時に負荷がない場合は電機子チョッパでも回生ブレーキが効かないのです。
つまり回生電力を消費してくれる電車が近くにいなければならないという不安定要素があります。
国鉄201系では回生負荷の変化に備え回生ブレーキの不足分を空気ブレーキで補う電空演算方式をとっています。

低速で運行し かつ不測の事態には急ブレーキが必須となる路面電車には電機子チョッパであっても回生ブレーキは向いていないのです。
よって800形は回生ブレーキを装備するにあたり 余剰電力を熱に変えて消費する抵抗器を外せなくなったようです。
結果700形吊り掛け駆動車より1tあまり重くなっています。

1987年という年は広電にとって特別な年です。
800形電機子チョッパ車(3月)、3700形抵抗制御車(6月)、3800形VVVFインバータ制御車(3.11月)と3通りの制御方式の電車をデビューさせているのです。

近年では路面電車でもVVVFインバータ制御車が当たり前になっています。
例外なく回生ブレーキを装備しています。
VVVFインバータ制御では可変電圧(VV:VariableVoltage)の特性を生かして電圧の調整を行い回生ブレーキのブレーキ力もコントロールしてくれるようになったからです。
それだけではありません。VVVFインバータは3相交流の誘導電動機を使用できることもあり性能面でも またメンテナンスにおいても圧倒的に電機子チョッパを凌駕するテクノロジーです。
鉄道事業者がこぞって右へならえとなったのはその優秀さ故です。

ここで800形です。83年製の01.02 87年製:03.04は仕方ないにしても、90年製の05以降、97年製の14までの10両はVVVFインバータ制御に変更してしかるべきではないかと思うのです。
どうしてVVVFインバータ制御車である3800形、3900形、3950形と平行して 電機子チョッパ車を それも10年にわたり増備し続けたのでしょうか。

800形導入時の契約によるものか。あるいは補助金がらみなのか。よくわかりません。

800形では2018年より制御器をVVVFインバータ(IGBT)に換装したものもあらわれました。
(スペックはわかりませんでした)


パンタ横の抵抗器がなくなり代わりに小さなBOXが搭載されています。
805~810の改造を確認しています。
3次車以降を対象にしているようですが今後どうなるのか注目です。

広電800形のバリエーション
800形① 1次車 800形② 2~5次車 800形③ VVVVFインバータ制御改造車

-路面電研究- →鉄道車両写真集index
広島電鉄 市内線
広電オリジナルの旧型車 650形 350形 500形 550形
もと大阪市電 1965~ 750形①   900形①  もと神戸市電 1971~ 570形①   1100形 1150形
もと西鉄 1977~ 600形 もと京都市電 1980~ 1900形①   レトロ電車:100形 200形 70形
広電オリジナルの市内線新型車 700形①  ③ 800形①  ③ 1000形① 
広島電鉄 宮島線直通
広電オリジナルの旧型車 2000形①  2500形① 3100形
もと大阪市電 2500形② もと西鉄 福岡市内線 1300形 3000形①  
広電オリジナルの直通新型車 3500形 3700形 3800形 3900形 3950形 5000形 5100形   5200形

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