「これ冷房車?」広島電鉄 1900形 1901(富士電機製分散型冷房車) 珍車ギャラリー#277

「これ冷房車?」広島電鉄 1900形 1901(富士電機製分散型冷房車) 珍車ギャラリー#277

広島電鉄1900形はもと京都市電の1900形です。
かつて京都市電を見慣れていた人ならそう言わずともわかる昔の出で立ちで活躍しています。
私の鉄仲間のサイキョージ氏は京都の大学ご出身です。
広電1900形を見るなり「うわー懐かしいなあ!」を連発しておられました。

1977年に広島にやってきた1900形は1957年製。2024年まで そのすべてが現存していました。
つまり京都で20年、広島で47年、あわせて67年という永きにわたり活躍してきたということで これはすごいことです。
もちろん動態保存をしてきたわけではありません。京都から移籍してきたのは15両。
とりもなおさず1900形は広島市民の足としてしっかり働いてきたということです。

さて広島には1900形だけでなく日本各地の路面電車が集結し同じように現役で活躍しています。
路面電車の博物館などといわれることもあるのですが、それは結果論というべきです。
一時、モータリゼーションの煽りを受け絶滅しかけた路面電車は今や力を盛り返し再び都市交通の立役者として脚光を浴びるようになりました。
広島での活躍が大きいと私は思っています。

なかでもこの1900形がその鍵を握っていると思うのです。
それは冷房化です。1900形は路面電車の冷房実用化に大きな足跡を残してきたのです。

路面電車の冷房化は熊本市電がその先鞭をつけたことになっています。
しかしそれが実用化され当たり前のように搭載されるのにはまだ少しばかり時間が必要でした。

広島市は広い道路に加え、電車優先信号などの設置がなされ行政も路面電車と自動車との共存に力を入れてきました。
しかし広島電鉄の経営状態は芳しくなく新車をガンガン投入するほどの体力はありませんでした。
その体力を補うべく広島電鉄では各地から状態のいい中古車両をかき集めてきたわけです。
当然 どの車両もクーラーなどついていません。

もともと路面電車は停留所の数も多く信号待ちも頻繁にあります。
それでなくても熱気のこもる夏場の電車は乗客にとってもつらいものです。
乗客離れを食い止めるためにも冷房化はなんとしても実施しなければならない施策だったのです。

当時、広島電鉄は関係各メーカーに冷房化の話を持ちかけました。しかし
「今更、路面電車にクーラー?」とか、
「電源はトレーラーに乗っけて運びますか?」などと言われ相手にされなかったそうです。
それでもやっと3社目にしてバス用のクーラーを転用できることがわかり、1980年、早速実装することになったのです。

それが1901です。

広島電鉄 1900形 1901 冷房能力 25.000kcal×1
広島電鉄 1900形 1901  冷房能力 25.000kcal×1

さて、ここで画像をご覧ください。
どこにクーラーがあるんだ?と思われませんか?
実は私も1901にはクーラーはついていないと思っていたのです。
クーラーは今でもそうですが、天井に乗っかっているのが定番です。
もっともJRなどでは床置き形、床下形クーラーというのも少数ですがあります。
しかし路面電車は低床車です。普通に考えても床下のスペースはわずかです。

いったいどのようにしたのでしょう。

ここで、クーラー(エアコン)の仕組みについておさらいします。
まず、その原理から---
気体に高圧をかけて圧縮すると高温を発し液体に変化します。
この液化した気体が常圧で気体に戻るとき、周りから熱を奪っていきます。
これを潜熱といいます。
例えば注射のとき消毒アルコールで腕を拭くと、冷たく感じます。
これも液体であるアルコールが気化するときに腕から熱を奪っていくからです。
ほとんどの冷却(冷凍)装置はこの潜熱を応用したものです。

エアコンではこういう流れになります。
まずコンプレッサーによって圧縮された冷媒(フロンガスなど)は高温高圧の半液体の状態でコンデンサーに入ります。
(室外機と思ってください)
冷媒はコンデンサーでコンデンサーファンの風によって排熱=冷却され、さらに液化が進みレシーバーへ送られます。
液化された冷媒はエキスパンションバルブ(膨張弁)の微小なノズル穴からエバポレーター内へ噴射され一気に気化します。
(室内機と思ってください)
気化した冷媒はエバポレータ周りの熱を奪っていき、それによってエバポレータが冷やされるのです。
そこにブロワファンの風を通過させれば冷風が発生するというわけですね。
エバポレーターを出た冷媒はまたコンプレッサーに戻り再び圧縮されます。
このように冷媒を循環させてひとつのサイクルを構成する。
これがエアコンの仕組みです。

電車のユニットクーラーは一連の器機をあの中にパッケージングしているわけですが、
1901の場合 それを室内と床下に分散させたと考えればわかりやすいでしょう。
バス(キハ40系なども)で用いられるクーラーはエンジンの回転力でもって冷媒を循環させます。
電車の場合、大抵、定速度回転で効率のよい交流(AC)モータを使います。
この場合直流を交流に変換するインバータ装置が必要になります。
しかし そのスペースを切り出せなかった1901では直流(DC)モータを採用しました。
加えて放熱器であるコンデンサを 運転台の下、台車の前に装架しました。
まさにスペースとの戦いですね。
富士電機の担当者は大変な苦労をされたのではないでしょうか?

それでも何とか収まったその理由の一つは1900形が直接制御車であるということです。
運転台にデーンと居座っている大きなマスコン(KR-8)こそが直接制御車のあかしです。
マスコンの軸がそのまま直に抵抗の繋ぎを変えるシステムだから床下に抵抗器を配置する必要がないのです。
旧態然としているシステムであるが故に1901の冷房改造は可能になったといえるでしょう。

さて はじめは広島電鉄の申し出を袖にしていたメーカーも、富士電機に触発されたのでしょうか、やる気を出したようです。
三菱電機はACモータを採用するユニットクーラーシステムMDA方式を提案します。
まずコンパクトにまとめられたユニットを二つ天井に載っけました。(電源用SIVは床下)
これが1902~04です。(1981年改造)

広島電鉄 1900形 1904 冷房能力 10.500kcal×2
広島電鉄 1900形 1904 冷房能力 10.500kcal×2

そして、1982年から改造された1905~ではユニットクーラーが一つにまとめられました。

広島電鉄 1900形 1910  冷房能力 21.000kcal×1
広島電鉄 1900形 1910  冷房能力 21.000kcal×1

急速に進化していたことがうかがえます。
結果、富士電機の分散型を搭載したのは1900形では あと1913に搭載されたのみです。
他形式はというと宮島線直通の連接車である3000形にも搭載されはしました。(1980~83年改)

広島電鉄 3000形 3006 C車屋根上にコンデンサ・コンプレッサ・駆動用モータを設置。

しかしやはりこれのみで、 1988年には三菱電機のCU-77型に統一されてゆきます。

広島電鉄 3000形 3005 CU-77×3に換装 C車屋根上にSIVを設置。

構造が複雑で、製作時もメンテナンス時にも車種ごとに対応を変えてゆかねばならない分散型が不利なのは致し方ないところでしょう。

ここでもう一つ広島電鉄のスゴいところをお話ししましょう。
それは 900形(もと大阪市電2601形)の冷房改造にあたって、そのすべてがモータを取り替えていることです。
もともと900形のモータ出力は38kw×2でしたが、これを1900形と同じ 45kw×2にしました。
クーラーは重いのです。改造車の重量は約1t重くなっています。
このままでは後続車にすぐ追いつかれ、足手まといになってしまうことは必至です。
広島電鉄では当時廃車が進んでいた750形(もと大阪市電1601形/1801形)のモータを転用しました。

こうした実績がモノをいい、広島電鉄のみならず多くの路面電車事業者が冷房車を導入することになります。

結果としては、前述したように三菱電機のMDA方式が路面電車冷房化のスタンダードとなりました。
しかし 富士電機が手がけた分散型冷房改造車-1901-の存在が起爆剤になったと私は思うのです。

参考文献: 鉄道ピクトリアル 「特集 広島電鉄」 1990年11月号 No535
私鉄の車両3 「広島電鉄」 1985年4月 保育社

*この記事は2014年10月に記したものがベースとなっています。

-路面電研究- →鉄道車両写真集index
広島電鉄 市内線
広電オリジナルの旧型車 650形 350形 500形 550形
もと大阪市電 1965~ 750形①   900形①  もと神戸市電 1971~ 570形①   1100形 1150形
もと西鉄 1977~ 600形 もと京都市電 1980~ 1900形①   レトロ電車:100形 200形 70形
広電オリジナルの市内線新型車 700形①  ③ 800形①  ③ 1000形① 
広島電鉄 宮島線直通
広電オリジナルの旧型車 2000形①  2500形① 3100形
もと大阪市電 2500形② もと西鉄 福岡市内線 1300形 3000形①  
広電オリジナルの直通新型車 3500形 3700形 3800形 3900形 3950形 5000形 5100形   5200形

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