「寿命半分?」JR東日本 901系 珍車ギャラリー#199

「寿命半分?」JR東日本 901系 珍車ギャラリー#199

901系は試作車です。にもかかわらず10両編成が3本=合計30両製作されました。
ちなみにJR四国では121系で38両。6000系などは試作車でもないのに総勢6両に過ぎません。
でもJR東日本にあっては たかが30両。
その電車の総数から考えれば、30/11249(参照;JR電車編成表 93年版)にすぎないのです。
いかにJR東日本がガリバー企業であるかが ここからも伺えます。
30両という数だけではありません。901系はそのバリエーションも凄いのです。

A編成(川崎重工業),B編成(東急車輌),C編成(川崎重工業)+(JR東日本大船工場)と3編成が異なる仕様で製造されました。
制御装置については各編成毎に別タイプのインバータが搭載されています。
A編成ではパワートランジスタを使用した個別制御。
B編成は高耐圧小容量のGTOによる2レベルインバータで個別制御
C編成は低耐圧大容量GTOによる3レベルインバータで4個一括制御
という具合で様々な方式が試されたわけです。
メーカーも富士電機、東芝、三菱とこれらを分担させ競わせています。
とはいえ好き勝手に競わせたわけではありません。明確なコンセプトがありました。
「重量半分、コスト半分、寿命半分」です。
試作車には二通りのパターンがあります。
次世代の先進的なテクノロジーを実用に供するか否かを判断するためのものと、
実際に営業運転に就かせながら より実態に即したものであるかどうか 判断するためのデータを得ようとするものとです。

後者は先行量産車などと呼ばれています。901系はこちらに属するものといっていいでしょう。
ここからフィードバックされたデータから209系が生み出され量産されてゆきます。
そして 901系は試作車としての使命を終え 1994年1~3月にA、B、C編成がそれぞれ209系900/910/920番代に改番されました。

ところでJR東日本では各メーカーに対し 均一に同じ車両を作れとは強制しませんでした。
川重では妻面にビートを設けその強度をUPさせることを提案してきましたが そのやり方を901系→209系でも踏襲させています。
コストも含め要件を満たしていればメーカーの言い分も聞くといった柔軟な姿勢を示したのが901系→209系の特色です。
しかしコストを重視すれば 品質面は目をつぶらなくてはやってゆけません。
軽量化も省エネにつながる重要な要素です。でも同時に堅牢さを求めるのは無理があります。
必要最低限の強度ではこれを長持ちさせることはできないでしょう。
JR東日本はあえて寿命半分を打ち出しました。

さて電化製品の寿命っていうのはおおむね10年というところでしょうか。
ウチの電化製品には私の趣味で購入日と購入金額を記したシールを貼っているのですが、
テレビにせよ冷蔵庫にせよ。「10年になるなあ。もうボツボツおだぶつかな。」
と思っていると動かなくなることが多かったですね。
もっともウチの電化製品は優秀で最初の一年を乗り切れば大抵一度も故障することなく10年は活躍してくれました。
もちろん10年以上活躍してくれたものもたくさんありました。
でも私が子どもの頃は、そんなことはありませんでした。特にテレビがよく壊れました。
その度に電器屋のおじさんがやってきてテレビのウラ蓋を開けテスターでチェックしながら、真空管やら抵抗器やらを一つ二つ取り替えて帰って行かれました。時にはチャンネルの接点になにやら細工をして、なにも取り替えずに帰って行かれたのも憶えています。

今は修理自体が少なくなりました。
修理といってもその場で問題となるユニットをゴソッと入れ換えるだけです。
それでもだめならメーカー送りにされ 取り替えられた部品が一緒に送り返されてきたりします。(別にいらないんですけど、)
これもまたユニットあるいは電子部品が多く実装された基盤です。
きっとこの中の何かが壊れているのでしょう。
昔と違って壊れていない部分も購入させられているものと考えられます。
今時の電子部品はブラックボックスのようなものですからこれも仕方のないことでしょう。
修理代が高くつくのも無理はないと思われます。
そんなわけで 今は購入後10年もたっていれば  修理の見積もりを聞くまでもなく新しいものを買うようになってしまいました。
新製品は 単に新しくてキレイだというだけではありません。例外なくより高機能になっています。
(もてあましているきらいもありますが…、)
とりわけ省エネ性能が進歩しており電気代(ランニングコスト)が大幅に削減されているというのです。
高額な修理代をかけて古いのを維持するほうが 結局高くつくというのであれば 買い換えるのが当然の選択となるわけです。

長い寄り道になってしまいましたが これが901系のコンセプトです。
でも壊れてもいないのに買い換えをするというのはいかがなものでしょう。
終了してしまいましたが エコカー補助金というのがありました。
また家電製品についても エコポイントなるものがついていました。
「早く買い換えるのがお得ですよ。」
と、なにかせっつかれているような日々だったように思います。
なんか乗せられたみたいで釈然としませんでした。
やっぱりなんかもったいなくてまだ使えるものを廃棄することが私にはエコとは思えなかったのです。
自慢じゃありませんが、我が家では地デジチューナーが内蔵されていないブラウン管のカラーTVがまだ現役です。
2002年ビクター製。故障はいままでただの一度もありません。(この記事は2011年に書いたものです)
かさばっていることが欠点ですが 画像にも不満はありません。
でもこれもアナログ放送終了とともにあと50日ほどの命です…。

30年ほど前の話になりますが 水間鉄道の車庫を見学させてもらったとき 作業員の方とこんなお話をしました。(古いことなので創作部分もあるかもしれませんが、大筋は間違いありません。)

(私)「水間鉄道では 南海のお古である1201形をずっと使い続けていらっしゃいます。
今国鉄では新性能車である101系などに大量の廃車が出ています。これを譲り受けるとかいうのは考えないのですか?」
(作業員のおじさん)「国鉄?国鉄のはダメだ。時期が来れば 黙ってても新しいのが入ってくるもんだから そこまで持たせることしか考えていない。だからお払い箱になったときはもうガタガタだ。ウチみたいな中小はおいそれと新車なんて買ってはもらえないんだ。だから大切に使う。南海の1201形はいい電車だ。古いがまだまだ使える」

実際、南海はその当時貴志川線で1201形を使っていました。
今でもそうです。本当に南海という会社は電車を長く大切に使う会社だと思います。
南海線の7000系は片開き4ドアのスチール製抵抗制御車です。そう聞けば いかにも古くさい。
しかし、虚心坦懐になってその乗り心地を体感してみてください。
抵抗制御とはいえバーニア制御のステップレスでスムースな乗り心地は1960年代の車両とは思えないほどです。
103系には悪いのですが、まだ今なら新今宮乗り換えで103系と乗り較べできます。
是非おためしください。
さすれば7000系が南海本線で10000系とともに今なお特急「サザン」にも用いられるのも納得いただけると思います。

確かに7000系は209系より電気は食うでしょう。
レトロともいえない中途半端な古くささは見た目にも個性に乏しく人気車両とはいえないでしょう。
ですが 意識して乗ればこそわかる名車です。
こんないい電車をただ古くなったからと、お払い箱にしない南海の姿勢こそエコといえるのではないでしょうか。
それだけではありません。
今あるものを大切に使うことは、技術(ノウハウ)の伝承という観点からみても大切なことなのです。
10年では見えてこない弱点(欠陥)も20年30年と使い続けている内に見えてくるのです。

今、日本は鉄道を輸出産業にしようと考えています。
しかしコスト面では後発の韓国や中国に太刀打ちできません。
日本の技術のいいとこ取りをされているようで、なんか悔しいのですが、
日本の車両メーカーと実際に車両を運用してきた現場が長年積み上げてきたノウハウの数々において
日本が負けるはずはありません。だからこそ、これを失ってしまってはいけないのです。

今後電車を発注する途上国にとって大切なことは初期投資の費用もさることながら長い目で見れば信頼性の高い高品質なもの…
つまり故障知らずで長持ちする車両こそがもっとも期待されているのではないかと私は思います。

1992年にデビューした901系は、209系900番台に量産化改造され 2007年.10月~2008年1月にかけて廃車されてしまいました。
予定通りとはいえ15.6年という寿命はやはり短すぎるような気がします。
209系量産車についても、このあとを追うもの…と私は思いこんでしました。

ところがなんと言うことでしょう!
209系2000番台がデビュー。2009年10月から運行開始したではありませんか。
これは京浜東北線でお払い箱になった0番台を改造したものです。
先頭車については座席をセミクロスシートとし強化型スカートを取り付けました。
また2号車(モハ208)にはトイレを設置するなど近郊形電車の仕様となって生まれ変わったのです。

まだまだ使える。209系は予想に反し!まだまだ使えることが立証されたのです。
これは、重量半分、コスト半分そして寿命半分という命題を突きつけられながらも しっかりしたモノ作りにこだわった日本の車両メーカーの底力と寿命半分であろうがなかろうが手厚くメンテナンスしてきた浦和電車区の”士気の高さ”があればこそできたことなのではないでしょうか?
「-走るんです-とは言わせない!」
そんな現場の意地が901系から209系に引き継がれていったように私には思えるのです。

-鉄道車両写真集-
 京浜東北線  901系試作車 209系900番台 209系0番台 房総各線用209系2000番台  へJUMP

参考文献;鉄道ピクトリアル 「特集 JR東日本 209系 E231系」No732 2003.6 ほか新車年鑑
;JR電車編成表 93年版

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