「最後の新製急行用気動車」JR東日本 キハ110系0番台  珍車ギャラリー#351

「最後の新製急行用気動車」JR東日本 キハ110系0番台   珍車ギャラリー#351

JR東日本には特急用気動車が在籍しません。
意外な気がしますが根室本線や山陰本線のような非電化の長大路線がないのが大きな理由です。
一方で急行用として新製の気動車をデビューさせているのです。
キハ110系です。急行「陸中」としてデビューし 特急として運用された300番台も存在しました。
その試作車となる0番台。どんな車両なのでしょう。

最後の急行用気動車

2009年、岡山~津山間の急行「つやま」が廃止されました。
これが最後の気動車急行です。(定期列車として)
キハ48形で最後を迎えましたが、ながらくキハ58系を使用していました。
ともに国鉄時代の代表的気動車ですね。
JR東日本 最後の気動車急行はというと2002年に廃止された釜石・山田線急行の「陸中」です。

急行「陸中」 キハ110形 0番台 キハ110-1 試作車 釜石線 花巻駅

こちらにはJR東日本が、なんと新製したキハ110形が使用されていました。
JRが製作した唯一の急行用車両であり「最後の新製急行用気動車」となります。
2002年11月に急行「陸中」がなくなり、以降は後継となる快速「はまゆり」をはじめ釜石線および東北本線日詰 – 盛岡間の普通列車に使用されているキハ110形。
いったいどのような車両だったのでしょうか。

キハ110形は1990年3月。釜石、山田線でデビューしました。
このとき北上線でキハ100形が同時にデビューしています。
ともに試作車でJR東日本における非電化区間のこれからをうらなう存在でした。

あわせてご紹介します。キハ100形は16m級車体のキハ110形は20m級車体の両運転台車です。
車内は床面を100mm程度低くしたせいか けっこう広々と感じられます。
スチール製ですが徹底した軽量化が図られました。
エンジンは1両あたり1台搭載します。
高出力の直列6気筒直噴式インタークーラー付きターボで連続定格出力330PS/420PSを叩き出します。
小型軽量のエンジンで乾燥重量はキハ40系のDMF15HSAの約半分というのですから驚きです。
キハ110形には西ドイツVOTIH社製 液体変速機T211rzを搭載しました。これも軽量化に重きを置いた選択です。

結果、彼女たちは勾配区間をものともしない電車並みの加速性能と応答性のよい電気指令式ブレーキを持っていたため飛躍的に運転性能が向上しローカル線のスピードアップに大きく寄与しました。
また、車体の側窓に複層ガラスの連続固定窓、側扉にプラグドアを採用することにより密閉性が高められた車内は快適な室内温度と静粛性を獲得しました。

旧型気動車の取り替えとローカル線でのサービス改善のために製造された彼女たちは当時、大量に導入された第3セクターなどのレールバスとは一線を画するものです。
商品としての競争力低下を打破するものと参考文献には書かれていますが、それは控えめに過ぎるように私には思われます。
普通列車はもちろん、急行そして特急としても用いられたという実績を持つのは彼女 たちが優れた基本性能を有していたことに他なりません。

キハ100形は、キハ101~103形へ キハ110形は、キハ111、112形へとそのファミリーを増やしてゆきます。
JR東日本管内の津々浦々まで活躍の範囲を拡げることになるキハ100/110系。
その礎となるのがキハ110形 、キハ100形先行量産車なのです。

急行って?

さて、最後の新製 急行用気動車となるキハ110形ですが、そもそも「急行」とは何でしょう。
文字通りにゆけば、目的地に「急いで行く」ということなのでしょうが、
その点では「特急」には及ばないということで中途半端な存在となってゆきました。
もっとも「特急」がすなわち「特別急行列車」で「特別」だった時代は急行列車は庶民の足として日本全国津々浦々で運転されていました。
しかし1964年10月に東海道新幹線が開業して以来、新幹線網が拡充、在来線の特急形電車が大量に余ってしまうということになってしまいました。

1972年10月に毎時の発車時間を揃えて利用しやすくした「エル特急」が各地で大増発されると特急の大衆化がいっそう進み 長距離は特急列車に格上げ、近距離は快速に格下げされ急行列車はその姿を消してゆきます。

国鉄では急行料金をとるということもあって、
西日本では急行形気動車(キハ58系など)への冷房取り付けも進み、
前述の「つやま」のように、
JRとなってもそのまま急行用として使ってゆくケースもまま見られました。
しかし東北以北では、気動車、客車(普通車)の冷房設置は遅々として進まない状況でしたので、
これを機に、老朽化していた急行形車両の代わりに余った特急形電車を投入して、
急行を特急へ格上げする動きが生まれてきました。

ただ、JR東日本管内には特急用の気動車が在籍していませんでした。
JR九州ではJR四国から185系気動車を転籍させて急行「火の国」「由布」を格上げ、
特急「あそ」「ゆふ」に使用しましたが、寒冷地対応ではありません。
それならばJR北海道から183系気動車を引き取って使えばいいではないか。
といいたいところですが、そういうことはありませんでした。

キハ185系が短編成で使うことが前提だったのに対しキハ183系は長大編成で使われるものだったからです。
長大編成が必要な長距離路線はすべからく電化されており485系電車などがこの任にあたりました。

一方、釜石、山田線にしても北上線にしても短編成で十分まかなえるものです。
加えて路線もそう長いものではありません。すなわち そんなに数はいらないのです。
改めて特急用気動車を開発するには及ばないというのが実際のところだったのでしょう。

それならば高性能のローカル線用気動車を作成し使用実態に合わせてセミクロスシート、ロングシート、リクライニングシートそして展望式の座席配置まで様々なバリエーションを派生させ使い分けてゆく方がリーズナブルです。

特急「秋田リレー号」を覚えておいででしょうか。
使用されていたのは、キハ110系300番台。後にも先にもこれしかないというJR東日本の気動車特急です。
秋田新幹線が開業するまでの間、改軌工事で不通となる田沢湖線にかわって北上線経由で運行する文字通り「つなぎ」の特急列車でした。
急行用車両として使われているキハ110形だから「つなぎ」の特急用車両に採用しても差し支えない。
(特急料金を取っても大丈夫という点もふまえて)
という判断があったのではないでしょうか。
こう言っては何ですが、JR西日本のキハ120形みたいなローカル線用気動車に特急の看板を背負わせるわけにはまいりますまい。
JR東日本はそこまで考えて汎用かつ高性能の急行用気動車を開発したのではないかと思うのです。

参考文献:鉄道ピクトリアル 「新車年鑑 1990年版」 1990年10月 No534 の記事

-鉄道車両写真集-
JR東日本  キハ100系  キハ100形 キハ101形  キハ110系 キハ110形 キハ111+キハ112形 へJUMP

珍車ギャラリーカテゴリの最新記事