2007年、JR東海に今までに見たことのないヘンな車両が登場しました。
コンテナ貨車のようでありながら、とってつけたような運転台があります。
いったい彼女は何者なのかと申しますと 国内初。気動車による在来線用のレール運搬車-キヤ97系-です。
レールは消耗品
鉄道ですから当然レールはつきものです。
でも丈夫に見えるレールも実は消耗品です。寿命が来れば交換しなければなりません。
JR東海においてはかつて、EF64、EF58、DD51形などの機関車がコキ(コンテナ貨車)改造のチキ(レール運搬貨車)を引き連れ、
現場までレールを搬送していました。
しかし、この方法はあまり効率のいいものではありません。
レールを備蓄している基地から現場へむけ発車したレール列車を帰還させようとすれば、機関車を付け替えできる駅まで回送してやらねばなりませんし、レールは重いものとはいえロングレールでもない限り本線用の機関車では牽引力をもてあます結果になります。
まあ、いってみれば保線用の移動機(モーターカー)でもこなせる仕事です。
事実、民鉄ではこれでこなしているところがほとんどです。
でもJRはちょっと事情が違います。
保線用の移動機は営業列車が走行している本線には入線できないのです。
民鉄なら終電から始発までに十分な時間の空白があり営業列車が走ることはありません。
その間に線路閉鎖を行い移動機を本線走行させることができます。
しかし、JRには夜行列車があります。それに加えて夜には貨物列車が走るのです。
私の女房の実家は東海道本線 舞阪駅のすぐ近くにあります。
昼間はさほど気にならない電車の音も深夜には結構聞こえてくるものです。
終夜営業をしている貨物列車にいったい何回 目を覚まさせられたでしょう。
とにかくハンパな回数ではないのです。
いつ、保線作業をしているのだろう?--こっちが心配になるくらいです。
レールっていつ取り替えるの
そうです。JR東海では 少なくとも東海道本線においては線路閉鎖などやってられないのです。
ダイヤのすき間をぬって作業をしなければならないわけです。
さすれば機械扱いの移動機ではダメで車籍をもつ機関車が必要になります。
JR北海道のDBR600形のように移動機でも使用する車両を機関車扱いすることも可能です。
しかしこれではスピードが遅すぎます。
後続の列車に影響を与えない逃げ足の速い車両が望まれることとなるわけです。
ですから本線用である機関車が必要ということになります。
とはいえ当時の機関車は国鉄時代のものです。老朽化が進行しており新たに導入する必要がありました。
もともとJR東海は機関車をあまり必要としない旅客鉄道会社です。
ここは気動車で肩代わりをさせようということになったのです。
こうすれば旅客車両と共通化することができ車両保守の点からしても好都合です。
新たに機関士を養成する必要もありません。
キヤ97系の脚力
キヤ97系のスペックを見ていきましょう。
エンジンは、カミンズ社製のC-DMF14HZC (360ps) を搭載しました。
これは特急車両であるキハ85系(C-DMF14HZ (350ps)インタークーラー付き直噴式ターボエンジン)と同系統のエンジンです。
電子燃料制御式に変更されています。
JR東海の運転手さんから「見た目は同じでも全く異なるエンジンです」とのご指摘をいただきました。
ブレーキも電気指令式空気ブレーキを採用するなど高速仕様になっています。
もっともキヤ97系には諸々の制約があります。キハ85系ほどのスピードは出せません。
それでも最高速度は 空車時110km/h、積載時95km/hです。従来のレール運搬車の次元を遙かに超えています。
これなら後続列車に追いつかれることはありません。
ブレーキといえばJR東海ではこの車両から駐車ブレーキが付きました。
E231系などですでに使われているものとほぼ同じものだそうです。
これもJR東海の運転手さんからご教示いただきました。
駅の片隅で昼寝をしている保線用車両(=機械)と同じように見なされて 被写体にもならないと思われている方もいらっしゃるかもしれません。
ですが その足回りは特急並みのパフォーマンスであるとともにJR東海の車両史に残る存在であることを知っていただけたらと思います。
なお、キヤ97系には、25mの定尺レール運搬用である2両編成のR1~4編成4本と、
200mのロングレール運搬用である、13両編成のR101編成が存在します。
ともになかなか出会えない車両です。また出会えても撮影しづらい珍車中の珍車なのです。
この記事は2011年4月に書いたものをベースにしています。
参考文献;鉄道ピクトリアル 鉄道車両年鑑 2008
JR全車両ハンドブック2008
-鉄道車両写真集- |
JR東海 事業用気動車 キヤ95系 キヤ97系 |
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