「川車の見本市」山陽電気鉄道 2000系 珍車ギャラリー#139

「川車の見本市」山陽電気鉄道 2000系 珍車ギャラリー#139

 鉄道車両には、番号が付いています。
製造順に、ただただ単純に割り振るということは、創業時ならいざ知らず、まずあり得ないことです。
もちろん鉄道会社によってまちまちですが、おおむねその用途、車体の形状、動力の有無そしてその性能などに応じて、番号を割り振ってゆくわけです。
そして、同一仕様のものは、同じ車両と見なされ”形式”が与えられます。
特に電車などの場合は、常に同じ編成で用いられることが、原則として決められているグループがあり、それらをひとまとめにして”系列”とよびます。

山陽電気鉄道では、2001年当時、車両部から「現有車両の車系及び車形についての公式見解」が対外むけに出されています。
それによりますと、山陽の車両も国鉄(JR)と同じく、Mcはクモハ、Tcはクハ、Tはサハと車種記号を冠するのが正式とされているのですが、車両番号で、車種の判別が可能なのでこれを省略するとされています。
つまり山陽においても番号には規則性があり山陽の車両について知っているというものは、
「その番号を聞いただけで、その車種が判別できる」ということになります。
3000系を例にとっていうと
まず、千の位の”3”は抵抗制御車を表します。
次に、3000系では、性能や設備に応じて
3000形  3050形(製造時より冷房車)3200形(2000系の足回りを流用したもの)に分類されます。
又これとは別に、Tc車については百の位に6を T車については百の位に5を割り当てる…
などが決められています。

でも”3639”といわれて、その電車を頭にイメージできるのは、よっぽどのお方ですね。
私でも、「そりゃあ、3000系のTc車」というのはたやすいことです。
でも、普通鋼製である3638の続き番号である3639がアルミカーだというのは、ちょっと確認しないと自信がありません。

アルミカーは3600形の70番台とかに分けるとか。アルミカーのTcは3700形にするとかしてくれたら、分かりやすいのですが、そういう区分はしてくれていません。
3000系列はMc車の車番で判別するものとお考えください。

山陽電気鉄道 2000系00F モハ2000形 2000 電鉄垂水

さて、今回の主役は2000系。1956年に製造された山陽初の新性能電車です。
といってしまえばそれまでなのですが、そのMcとなる2000形は、とても同一形式でひとくくりにできるようなものではありません。
山陽2000系といえば 我が国初の全アルミ合金車体で有名ですが、
2000系には、アルミ合金車体製以外に普通鋼製もあれば、ステンレス製もあります。
それどころか、2ドア車と3ドア車が混在し、なんとロングシート車とクロスシート車までもが混在するのです。
時代の要請に従って、クロスシート車がロングシートに、2ドア車が3ドア車に改造される例は多々あります。
でも2000系は違います。新製時から、これらのバリエーションを有して登場したのです。
乱暴な言い方ですが、国鉄でいえば、車体の素材は103系と301系と205系。
車体の形状は103系と113系と117系とも分類されるバリエーションが新造されたということになります。

うーむ。2000系のコンセプトとはいったい何だったのでしょうか。
それを考える前に、表にして整理してみることにします。

車番 製造年 ドア 窓の配置 座席
2000-2001 S31.6 普通鋼製 2ドア車 広窓車:d2D7D2 ロングシート
2002-2003
↓    ↓
2008-2009
S32.8

S34.7
普通鋼製 2ドア車 狭窓車:d2D10D3 扉間転換式
クロスシート
08-09は、S35ロングシート化
02-07は、S44から3550(T)に
2502~4 S34.7
~8
普通鋼製 2ドア車 狭窓車:3D10D3 扉間転換式
クロスシート
普通鋼製車を3連化 中間車(T)
S44から3550(T)に
2010-2011 S35.12 ステンレス製 2ドア車 2コ1でユニット窓に 扉間転換式
クロスシート
先に(S35.6)2500(T)がデビュー
S45ロングシート化
2012-2013 S37.5 アルミ合金製 3ドア車 d1D4D4D1 ロングシート 登場時より2505(T)を含めて3連
2014-2015 S37.6 ステンレス製 3ドア車 d1D4D4D1 ロングシート 登場時より2506(T)を含めて3連
2507、08 S38.4 普通鋼製 3ドア車 d1D4D4D1 ロングシート 普通鋼製車を3連化 中間車(T)

年代順に並べたわけですが、こうすると何となく流れが見えてきます。

①車体の素材にあっては、 普通鋼製→軽合金(アルミ合金、ステンレス)製
②車体の形状にあっては、 2ドア車→3ドア車
③座席については  転換クロスシート→ロングシート
というところでしょう。
①について、最後の2507.08が普通鋼製なのは、初期車である普通鋼製の2000及び2008編成の3連化に合わせて作られたのだから特に問題はありません。
でも解せないのは、2000編成が「なぜロングシートで登場したか?」です。
ここで1955年当時の山陽が、どういう状況にあったかを振り返ってみます。
山陽は、明石を境に西は神戸姫路電気鉄道、東は兵庫電気軌道が各々別に開業しており、1500Vの鉄道線である神戸姫路電気鉄道が、600Vのトロリーラインである旧兵庫電気軌道区間に、乗り入れてくるカタチで運行されていました。
これらの直通車両は、複電圧車であり、当然、サイズも兵庫電気軌道に合わせ、小振りのものでした。
しかし、戦災による車両不足により、山陽はかつてない危機的状態に陥ったのです。
このピンチをしのぐために、全線1500vに昇圧、国鉄の63系電車を導入することにしました。
小田急や東武、関西では南海も63系を導入したのですが、大手でもない山陽が  もと600Vのトロリーライン区間をもつ山陽が なんと20m級の大型車を導入するのです。
終戦直後、集中豪雨による施設損壊もあり、
「どうせ復旧しなければならないのなら、この際、昇圧し大型車を導入しよう」
という考えが63系電車の導入に結びついたのかもしれません。
理由はどうあれこれは大英断であり、今の山陽電気鉄道があるのは大型車である63系電車を導入したからといっても過言ではないでしょう。
この時、小型車はその多くが大型の車体に更新され、昇圧工事を施されました。
一気に近代化を推し進め、スピードもアップした山陽は その後昭和30年代にかけて乗客数はUP。
好景気の後押しもあって、特急電車の運転も再開されました。

そこで、2000系です。
普通で考えれば、看板となる特急用に2ドア車のクロスシート車を…となるはずなのにそうはならなかったのです。なぜでしょう?

*理由 その1
まず、朝夕のラッシュ時における混雑がハンパなものではなくなってきたのです。
もとは小型車だった250形更新車を特急運用に動員したのもロングシート車で収容力があったからです。
朝夕のラッシュ時の混雑を緩和するため、何はともあれ収容力のあるロングシート車が必要だったということです。

*理由 その2
つぎに、ちょうどこの時期、神戸高速鉄道の構想が具体化し、阪急、阪神に乗り入れることも念頭に設計する必要がありました。
ちなみに、当時の阪急神戸線、阪神本線の架線電圧はまだ600Vでした。
神戸高速鉄道が、開通した折には昇圧され、その必要はなくなりましたが、2000系は複電圧対応の車両として登場しています。
より輸送力を求められる、阪急、阪神両社線に乗り入れるならロングシートでなければ、という事情があったのです。

*理由その3
車体のデザインです。当時、私鉄各社は、足回りのみならず車体の設計についても意欲的な試みを競ってきたわけですが、そのことでコスト高になるという反省がありました。
そこで私鉄経営者協会技術委員会は、私鉄標準車体の仕様を提案していたのです。
今でいえば、JR東日本の209系やE231系仕様の車両が、私鉄各社で導入されていますが、昔にもこういうことがあったのですね。
でも、当時はこの仕様に準拠した車両は、思いの外少ないのです。
しかして、山陽2000編成は、この数少ない標準仕様準拠車両となっています。
もっぱら山陽の車両を担う川崎車両にあっては、
「とりあえず地元の山陽で、まず標準仕様準拠車両を製造しておきたい」
という思惑がそこにあったのではと思われるのです。
ところが標準仕様準拠車両であったがために、クロスシート車にしたら窓枠とシートピッチが合わなくなってしまった。
もっともこれは私の推測でしかありませんが、これもロングシートを導入する理由の一つではないか?と思われるのです。

しかし看板となる特急には、やはり2ドア車のクロスシート車を…という声が山陽電鉄社内には強くありました。
そうした意見が2次車以降に現れています。そして当然、窓枠のサイズも、改められました。

山陽電気鉄道 2000系08F モハ2000形 2009 月見山 (クロスシートでデビューした車体)

さて、山陽2000系といえば、普通鋼製以外に、アルミ合金車体製もあれば、ステンレス製もあります。
と前述しましたが、私はここにも
「様々な素材で、車体を製造できる技術が川崎車両にはあるのだ。
その実績を示すためにも、とりあえず地元の山陽に、これらの車両を製造しておきたい」
という川車の思惑があるように思われてなりません。

山陽電気鉄道 2000系_14F① モハ2000形 2014 ステンレス車 板宿

もっとも2000系は、山陽のオーダーでその仕様が決定されてきたわけです。
でも標準仕様準拠車両を制作して提供する傍ら、その多彩なバリエーションをとり揃え、2000系を川崎車両のショールームにする。
川車サイドからすれば、それが2000系に対するコンセプトのようにみえます。
山陽の車両制作のパートナーである川崎車両の強い思いが、そこにはきっとあるのでしょう

山陽電気鉄道 2000系 モハ2000形 2013 アルミ車

初出:2009年3月04日
参考文献;私鉄の車両⑦”山陽電気鉄道”S60.8 保育社刊
鉄道ピクトリアル;特集”山陽電気鉄道/神戸電鉄”の各記事
no711 H13.12

-鉄道車両写真集-  
 山陽電気鉄道 250形 300形 850形 1985年以前 事業用車   2000系  2300系  2700系 へJUNP

 

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