「初めて直角カルダン駆動を導入した特急電車」 東武鉄道 5700系(C編成)珍車ギャラリー#123

「初めて直角カルダン駆動を導入した特急電車」 東武鉄道  5700系(C編成)珍車ギャラリー#123

昭和26年 戦後の混乱期も一段落し人々の心に旅へのあこがれが戻ってきたそんな時
首都圏の私鉄に クロスシートのロマンスカーが相次いでデビューしました。
小田急の1700形と東武の5700系です。
ともにSE車やDRCのような華やかさはありませんが 端正なスタイルは往年の特急車の品格を備えています。

しかし5700系は、通勤用車である7800系とパッと見た感じ マスクは同じです。
またそのサイドは国鉄の急行電車であった42系を思わせる旧態然とした車体です。
ところが 小田急1700形が早々に姿を消したのに対し 5700系は1991年まで それも ほぼ原型に近い姿で40年近く生き延びたのです。
ロングシート改造もされていませんし 冷房改造さえされていません。
彼らが生き延びてこれたわけはいったいなんだったのでしょう。

彼らが登場したのは1951~58年(昭和26~28年)でした。
登場時の彼らには結構バリエーションがありました。

まず、”猫のひげ”と呼ばれたA編成(1951年製)です。
非貫通の2枚窓でヘッドマークから伸びた3本のひげがいかにも愛嬌満点でした。
A編成:5700-700、5701-701
そして貫通型で半流線形のB編成(1951~52年製)
B編成:5710-710、5711-711
最後にB編成と同じスタイルながら、直角カルダン駆動となるC編成(昭和28年)
C編成:5720-720、5721-721
の12両です。
それにしても旧態然としている彼女たちにカルダン車がいたのです。
それだけではありません 5704(もと5720)は 営業運転では最初となる直角カルダン駆動を採用していたのです。
小田急1700形の後継となる2300系にもこのメカは組み込まれたのですが、
東武の5720形が彼らに先んじてこれを採用していたとは ちょっと驚きです。

直角カルダンといえば、東急の”青カエル”こと5000形が有名です。
(当局の珍車ギャラリーでも熊本電鉄に移籍した5000形を取り上げています。)
直角カルダンは 狭軌用の台車にモーターと継手をいかにして組み込むかという新性能車登場時における苦心の作です。
無理している分 案の定 小田急でも東武でもトラブル続きだったようです。
軽量車体とセットで開発された東急5000形や相模鉄道の車両など量産されていった例もありますが 新性能車の主流は平行カルダン駆動となってゆきます。

限られた数の車両を特急用としてやりくりしていた当時のことです。
5720形は現場泣かせだったのではないかと推察されます。
でも一方で、手のかかるおてんば娘ほど親にはかわいい存在です。
保守にあたった方々にとっては ひときわ愛着を感じておられたのでは…とも思うのです。
また、他のツリカケ駆動車もこれ以上のトラブルを避けるため ことのほか手厚く手入れされたような気がしてなりません。

結局、懸命の手当もむなしく車両保守の問題から 直角カルダン駆動搭載のC編成はA、B編成と同じツリカケ駆動に改造されることになりました。
また、運用上の問題から、”猫のひげ”A編成もB編成と同じスタイルの貫通式に改造されました。
もはや、5700,5710,5720と区別する必要がなくなり1965年。5700形として統一、改番されます。

5710-710→5702-702
5711-711→5703-703
5720-720→5704-704
5721-721→5705-705

さて 5700系が 特急車として活躍したのは 1700系が出そろう1957年までと短いのですが、
2両編成のユニットで かつ同一性能となった5700系は臨時列車あるいは団体列車用として使うのには 大変使いやすい重宝な車両となったといえるでしょう。

1720系DRCは完成された特急車であるがゆえに1973年製の1781Fまでもが 100系スペーシアが出揃う1991年にまとめて廃車されてしまったのですが 一方なんと5700系はこの年まで活躍していたのです。

*この記事は2008年6月に書いたものです。

-鉄道車両写真集-
東武鉄道 57系(5700系)快速急行だいや、快速たびじ 
へJUMP

参考文献;鉄道ピクトリアル 「特集 東武鉄道」1981.7 No392 1997.12 No647

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