「後ろ向きではありません」 JR西日本 221系 クハ220形 珍車ギャラリー#335

「後ろ向きではありません」 JR西日本 221系 クハ220形  珍車ギャラリー#335

221系近郊形電車は JR発足の翌年である1988年にデビューしました。
主にJR京都線・神戸線、関西線などで新快速・快速として活躍、
新生JR西日本のドル箱アーバンネットワークのイメージアップを担うフラッグシップともいえる存在でした。
以後91年までに474両が投入されました。

基本的なシステムは国鉄時代に登場した211系・213系に準じます。
と さらりと言いましたが、
これはMM’ユニット方式である211系に加え1M方式である213系と2種の主回路構成が同系列に混在するということです。
これは国鉄時代では考えられなかったことです。

形式の付け方も当然変わってきます。(→は米原側を意味します)
MM’ユニット方式である113系の場合
モハ112形+モハ113形→ と奇数、偶数で1セットです。
しかし 221系の場合
MM’ユニットを組む221形(奇数グループ)
クハ221形+サハ221形+モハ221形+クモハ221形→ と
1M方式である220形(偶数グループ)
クハ220形+クモハ220形→ サハ220形+モハ220形→ とが並行して製造されたことになります。

なぜこのように1M方式を同系列に加えたのでしょうか。
それは常にMT比(編成内の電動車と付随車の比率)が1:1になるように設定したからです。
MM’ユニットを組む編成でMT比を1:1にするには 4連、8連、12連しか組めません。
しかし1M方式で組成される2連ユニットを組みこめば 6連そして10連も可能になるのです。

113系では6両編成時  電動車比率が必要以上に高くなってしまったしまったわけですがそういうこともなくなりました。
そしてもう一つは 幹線以外の近郊線での運用をあらかじめ視野に入れ2連での運行も考えたからです。

この結果 桜井線向けの2両編成から東海道、山陽本線の最大12両編成まで需要に応じた編成を自由に組成できるようになったのです。

ところで220形グループすなわち1Mユニットは220系としても良いように思いませんか?
でも国鉄以来 JRでも系列は奇数で表すこととなっています。
そこは外すことができなかったようです。でも、
JR西日本の221系では奇数偶数の意味合いが従来とは大きく変わってしまいました。
そのことで 車両の向きも変わってしまったのです。

221系 NC207編成① クハ220形 クハ220-7 快速 葛城ホリデー号

クハ220形の画像をご覧ください。これは前でしょうか。後ろでしょうか。
普通に考えれば 運転台がある方が前ですよね。
国鉄の時代から 車両の前後はちゃんと決められていて 運転台のある方が前になります。
(両運転台車の場合 主たる運転機器がある方が前となっています。)
ですから従来のルールを適応すれば 答えは前です。
ところで運転台の車端下隅に車端番号板と呼ぶ丸いプレートが車端にあるのをご存じでしょうか。
「○のなかに1・2で標記してあるやつだな」とお気づきのかたもあろうと思います。
前を①・②位側・後を③・④位側と呼んでいます。
でも このクハ220形の場合  貫通路のある方に前位であることを示す①、②が表示されています。
つまり答えは後ろです。うーむどういうことでしょう?

さて電車の場合。今や運転台のない中間車のほうが数が多くなっています。
運転台がないのだからといって向きなどどちらでも良いというわけには行きません。
なぜなら中間電動車(モハなど)は 制御車(クハ、クモハなど)から制御されます。
中間付随車(サハ)も知らん顔はできません。
制御車からの命令を電動車にリレーする制御回路の引き通し線の位置が問題になってくるのです。
よってサハの場合 車内から車端に向かい制御回路が左側となるときの前方が前位。
というルールがあるのです。
言い方を変えると「後位側から前位側を見た時、左側に制御回路の引き通し線がある」
ということになり 東海道線を例にとると この引き通し線は山側に通されているということになります。

さて211系はモハ211形+モハ210形の電動車(MM’)ユニットがベースとなる系列ですね。

神戸 ←クハ210形(偶数)+モハ210形(偶数)モハ211形(奇数)+クハ211形(奇数)→ 東京

矢印で示したように、実はこのように車両の向きもこの並びが基準になっているのです。
つまり東海道本線でいうと
上り(東京)側に運転席があるのが奇数向き先頭車。
下り(神戸)側に運転席があるのが偶数向き先頭車と呼ばれます。
(ただし、113系にはクハ112形ではなく、クハ111形という奇数の形式が下り方にも連結されていました。
クハ111形のすべてがそうではないのですが、クハ111形の多くは「両渡り構造」と呼ばれ ひっくり返して下り側に連結することも可能となっていたからです。)
以上が国鉄以来のルールです。
現在、JR東日本やJR東海もこのルールを踏襲しているようですが
従来の原則にとらわれなくなったJR西日本は この前後の位置関係についてその考え方を変えています。
車両の上り方(東京側)に①②位を配置するというルールに改めたのです。
ですから下り方である1号車の先頭(運転台側)に①.②のマークはありません。
2号車側に付いています。
すなわち従来のルールで解釈すると下り列車は全車両とも後ろ向きに走っていることになります。
よってすべて下り側に運転席があるクハ220形はバック運転専用車となるのです。

でも思えば電車の前後ってあまり意味のないことなのかもしれません。
運転台側が前といってもそんなのは見ればわかります。
電車をメンテナンスする立場からいえばどちらに引き通し線があるかということの方が大事なのです。

221系  220形グループは 電車というものを一つ一つの車両を寄せ集めたものではなく、一編成を一つの車両と発想するところから生まれました。
下り列車においてクハ220形は時速120キロでバック運転していることになりますが、その設計思想は決して後ろ向きではないのです。

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参考文献:鉄道ピクトリアル 「新車年鑑1990年版」 1990年.10月 No534 の記事

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