「周波数を変化させること」近畿日本鉄道 1420系 珍車ギャラリー#113

「周波数を変化させること」近畿日本鉄道  1420系 珍車ギャラリー#113

周波数を変化させるということ -インバータ制御-

1420系2連 VW21① モ1420形 1421 VVVFインバータ制御試作車(GTO)撮影場所:鶴橋

アマチュア無線では、AMラジオに近い中波と呼ばれる周波数から 電子レンジにも用いられる極超短波まで、様々な周波数で電波を出すことが認められています。
私は、現在訳あってアマチュア無線から遠ざかっていますが、かつては毎日のように交信を楽しんでいました。中でもお気に入りは50Mzの周波数帯です。
普段は高性能のアンテナを使っても、100キロから200キロ程度しか交信できないのですが、夏場など地球を取り巻く電離層にスポラディックE層というものが発生すると、ちゃちなアンテナでも、沖縄、北海道といった1000キロを超える範囲でも強力に電波が届いてくるのです。
ただ、50Mz帯の周波数の倍数に当たる100Mz帯は、ちょうどNHKテレビのチャンネルにあてがわれていて、うまく調整しないとテレビ画面にノイズが出るなど障害が発生します。
アンテナのアースをしっかりとって また余分な電波はフィルターを通すことで、私はこの問題をクリアしました。

そういえば携帯電話も立派な無線機で使っている周波数は電子レンジにも用いられる極超短波です。
総務省は、その使用電力が微弱であることから人体に影響はないとしていますが、ある大学の先生の講演を聴いたとき、脳内温度のサーモグラフィーを見せられ、愕然としました。
まだ水分が多くやわらかな頭蓋骨の子供ほど携帯電話のアンテナを中心に赤く色づいているのです。
私は当時 幼かった子供たちに携帯電話を与える気にはなれませんでした。
電磁波はエネルギー波です。
目には見えないものですが何をやらかすかまだわからないことも多々あるのです。

インバータ電車というのは、制御器で電圧と周波数を変化させ3相交流誘導電動機の速度制御をおこなうというものです。
もっともその周波数は0Hzから300Hz程度と前述した電磁波とはかけ離れています。
また有線でもって流れてゆくものであって、無線機のように空中に発砲されるものではありません。
しかし電車を動かす電力はハンパではなく、誘導障害を起こす可能性は十分にあるのです。
鉄道の信号システムは、車両の位置情報をレールから得ます。
そしてまたこのレールは、アースでもあるのです。
信号が誤動作でも起こそうものなら、とんでもないことになります。
絶対的な信頼性を確保する必要があります。

インバータ電車開発の歴史

我が国におけるインバータ電車の先駆けは、熊本市電の8200形です。(1982年)

熊本市電 8200形 8201 VVVFインバータ制御

路面電車からスタートしたのは使用電圧が低いことから高耐圧デバイスの開発が比較的容易だったこともあげられます。
また路面電車にはもともと信号システムが存在しないこともインバータ電車を導入できた大きな理由でした。

鉄道会社も、手をこまねいていたわけではありません。
インバータ方式のメリットには捨てがたいものがあります。
ブラシレスでメンテナンスフリーの交流モーターを使用できるだけでなく、回生ブレーキの効率も高いのです。
またソフトの設定により様々な線区、運用に対応でき、また様々な電機部品の統一仕様も可能となるのです。
日立製作所は、営団6000形試作車を用いて、東洋電機も相模鉄道6000形をもちいて実車テストを行っています。
そうした実績をふまえて鉄道線の営業用インバータ電車が登場するのは1984年7月です。
東急が6000形に日立製のインバータ装置を搭載、抵抗制御車と併結し大井町線で運用を開始しました。
また同年、大阪市営地下鉄も20系を新製、三菱、日立、東芝と三通りのインバータ装置を搭載し中央線で営業を始めました。
そして、この年の10月に三菱製のインバータ装置を搭載して登場したのが近鉄の1250系です。
こういってはなんですが、大井町線や大阪地下鉄中央線はともに優等列車はなくシンプルな運用です。最高速度も低く設定されています。
しかし、近鉄には、近鉄特急を始め、一般車においても優等列車がガンガン走っています。
また近鉄の路線には急勾配の山越え路線も多くそのような路線を避けて通るような新車は作れません。
現在のようにありとあらゆる場所でインバータ電車見かけるようになったその先駆けとなるのは、やはり1250系ではないでしょうか。
当然ですが1250系の導入に当たっては、様々な試みが見られます。
上り勾配の起動時には周波数は変化させず電圧のみを上げてゆく方式を採っているのも、また回生ブレーキの失効時 直ちに電気ブレーキを有効にするため抵抗器をぶら下げています。
まあ普通、インバータ電車に抵抗器なんてものはいらないんですが、余分な電気は熱にして消費してしまうのが安全確実な方法です。
おかげで床下機器が多くなったため、クハである1350形にも多くの機器が搭載されています。
そんなわけで、編成あたりの重量は結構重くなってしまいました。
導入に当たっても、先に関係メーカーに車体ごと持ち込み完成車両として試験台上で入念なテストを繰り返し、必要な処置を施したうえで、本線での試運転を行いました。
これもまた無駄なようにも思えますが、安全性を最優先にした結果ではないでしょうか。
一方、ブレーキは在来車と混結するため、在来型のHSC-Rを採用しています。
こうしたことは近鉄ならではの事情だったともいえるわけですが、こうした共通運用を可能にする様々なノウハウが、以後インバータ電車が電鉄各社において爆発的に採用される契機となったものと思われます。

1250系は今後の鉄道車両の進むべき道を示した。

近鉄では、シリーズ21が登場する以前のインバータ電車には、インバータ装置を搭載していることを示すシンボルマークが戸袋のところに取り付けられています。
1250系にもこれが見られるわけですが、よーくごらんになってください。
1250系においては、レリーフとなるプレートが取り付けられています。
「私がこれからの鉄道車両の進むべき道を示したのよ」
と語りかけているかのように私には見えるのです。

近畿日本鉄道 1420系 インバータ制御試作車(エンブレム) 1420系 インバータ制御試作車(エンブレム)

初出:2008年1月5日

参考文献;鉄道ピクトリアル 「特集 近畿日本鉄道」2003.1 No727の各記事
鉄道ファン「特集 VVVFインバータ車両」1991.5 No361の各記事

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