「不協和音」山陽電気鉄道 5000系リニューアル車 珍車ギャラリー#406

「不協和音」山陽電気鉄道 5000系リニューアル車 珍車ギャラリー#406

*直通特急(山陽姫路-阪神梅田)

1969年に神戸高速鉄道が開通し、阪神、阪急は特急を須磨浦公園まで乗入れました。
しかし山陽特急は阪神、阪急の特急より編成長が短く梅田へ乗入れることはありませんでした。
直通特急が運行を開始したのは1998年2月。なんと30年近い歳月が流れているのです。

きっかけとなるのは1995年の阪神大震災でした。
復旧に手間取った阪神-山陽ルートは早期に復旧したJRに対し乗客を奪われてしまいました。
これを少しでも取り戻さなければならないという切実な実情が山陽にはありました。
これが直通特急を実現させるモチベーションです。

直通特急の運行により阪神から山陽姫路方面への利便性が大幅に向上たのはいうまでもありません。
運賃面では有利でしたが、残念ながらJRほど速くはありません。
加えてライバルとなる221系、そして95年に投入された223系1000番台は転換クロスシート車です。
車両面でも負けてはいられません。
山陽は5000系・5030系を充当しました。

*5000系

5000系は1986年に登場しました。
制御器は界磁添加励磁制御KMC-301(1C8M 富士電機製)電動機はMB-3020S4(125kw×4)。
ブレーキはHRDA-1(回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ)です。
3000系列はすべてロングシート車でしたが、5000系はセミクロスシート(固定式)で登場。
当時は、阪神・阪急神戸線もロングシート車ばかりでしたからうれしかったですね。
5000系は直通特急用として華々しくデビューしました。
といいたいところですが、当初は普通車用の3連でした。
でも特急6両化(1991年)に備えて増備された車両(5020F~)は転換クロス座席となりました。
前面の赤ラインが斜めにカットされています。スピード感を意識してのことでしょう。

*5030系

5030系は1995~98年に登場しました。外見上はあまり変化は見られないのですが、
山陽初となるVVVFインバータ制御(CDA964:IGBT・個別制御)のアルミカーです。
主電動機も富士電機製MLR105とし170kW。125kwからパワーアップしています。
なおブレーキは5000系と同じくHRDA-1です
5000系はMM’ユニットを基本とする4M2Tでしたが5030系では1M車の5230形を用意、6連でもMT比を1:1としました。
6連×2=12両が1998年の「直通特急(姫路-阪神梅田)」運転にあわせ導入されました。
(97年時点 5030系×2本  5000系×6本)

*異種混結編成

阪神、山陽のフラッグシップとなった直通特急は、
2001年3月、昼間1時間に2本から4本に増強されます。
これにあわせ山陽は5030系中間車2×4を新製、5004,06,08,10Fを6連化します。、
直通特急運用は山陽側で4運用増(6→10運用)となりました。
(03年時点 5030×2本  5000×6本  5000+5030×4本)
5000系4連に5030系中間車を2両挟んで6連を4本追加したといえばそれまでですが、
5030系と5000系の違いは制御方式がVVVFインバータ制御に変更されたことです。
5000系は界磁添加励磁制御です。
つまり増備された6連(04.06.08.10F)は異種混結編成となります。

山陽電気鉄道 5000系+5030系 6連 編成表
←西代①               ⑥山陽姫路→
形式 クモハ5000-モハ5000-サハ5500-モハ5231-モハ5230-クハ5600
04F:5004-5005-5500-5235-5252-5602  Tc-M-T-M2-M3-Tc
モハ5230形、5231形は5030系のM車。よってVVVFインバータ制御車です。
参考:私鉄車両編成表 2002

制御方式が違うのだからVVVFインバータ制御には6000系とかを割り当てても良さそうなところですが、
5030系としたのは5000系と異種混結編成を組むことをあらかじめ想定していたからではないかと思われます。

*5000系リニューアル車

2018年10月、5004F 6連がリニューアルされました。
制御装置は界磁添加励磁制御から山陽初となるSiCハイブリッドモジュールを用いた富士電機製の2レベルVVVFインバータ制御装置(CDA171)に変更。
主電動機も全密閉外扇式MB-5158A(180kw)に換装されました。
5004(Mc’)は車番を5702(Tc)に変更、電装解除しMT比は4M2Tから3M3Tになりました。
ユニットを組んでいた5005(M)も車番を5802(M)に変更、制御機器をVVVF化しました。

5000系リニューアル編成 02F② モハ5800形 5802

 

さて5004F は前述したように異種混結編成でした。
今回、界磁添加励磁制御車をVVVF化したことで異種混結は解消、電動機の出力も180kwに統一されたわけですから、めでたしめでたしといいたいところです。
よって04Fのリニューアル以後、06.08.10Fの異種混結編成は早々にリニューアルされるもんだと思っていました。
しかし、未だに追加されていません。

ところで、5235-5252 という奇妙な番号の組み合わせにお気づきでしょうか。
⑤号車にはM3が充当されます。
5030、32Fの⑤号車は5250、5251ですから、その次となる5252ですね。

←西代①               ⑥山陽姫路→
Tc M1 M2   T M3 Tc
32F 5632  5232  5233  5531  5251  5633

Mc1   M2   T    M2   M3  Tc
04F 5004  5005   5502  5235   5252  5602
リニューアル後
Tc   M1    T M2  M3 Tc
02F 5702 5802 5502 5235 5252 5602

リニューアル対象である04Fの ④号車はM2が充当されます。
M2はパンタ付きである②号車M1とペアですから奇数車になります。
よって30.32Fの③号車5231、5233の次となる5235となるわけです。
リニューアル編成の②号車は5802、新形式です。
①号車5004(Mc’)は電装解除し車番を5702(Tc)に変更しました。
ユニットを組んでいた②号車5005(M)は1M 化しました。
ですから5005のままというわけにはいきません。
また制御器をKMC-301(界磁添加励磁制御)からCDA171(VVVFインバータ制御:SiCハイブリッド)に換装しています。
新形式とし5802(M)に変更したのです。
対して5235は5252と同じVVVFインバータ制御器CDA-964(IGBT)を搭載しています。
当然5252を相方としこちらから給電をうけタッグを組み、新参者の5802に対します。

5000系リニューアル編成 02F⑤ モハ5200形 5252

 

かつて5004-5005(界磁添加励磁制御ユニット)と組んでいた5235-5252(VVVFインバータ制御ユニット)は、パワーをセーブして協調運転していたと思われます。
VVVFインバータ制御は電機子チョッパ制御と違ってこうした融通が利くことがメリットです。
ところで、今回のリニューアルでは、新型のVVVFインバータ制御器を導入したものの
中間車の5030系5235・5252の制御機器は従来のVVVFのまま更新されていません。
どちらに合わせたのでしょうか?

「私、お姉さま方に合わせていきますのでよろしくお願いします」
「あらあら、何を言い出すのかと思ったら…」
「あなたは最新型なのよ。旧式の私たちは付いていくだけ。しっかりしてね」
「……。」
というようなやりとりがあったのかどうか。…  それはさておき、
旧式などといってますが、IGBT素子のVVVFインバータ制御は実績のあるデバイスです。
これまで異種混結編成でもちゃんとやりこなしてきただけに自負心もあったに違いありません。
なにかしら新型との不協和音が私には感じられるのですがいかがでしょう。
実際、世代を超えたVVVFインバータ制御が混結されている編成はレアです。

*5006F

鉄道ダイヤ情報2022年7月号によりますと
山陽5006F編成の梅田方前4両が、2022年3月31日付で廃車となったということです。
この編成、2020年6月22日に、尼崎車庫内で事故を起こした車両です。
事故当時の画像を見ると5000系リニューアル車です。
車止めに乗り上げていた車両は5703だったように思います。
5006のままで廃車されたということですね。
5006は5004に続く2編成目のリニューアルでしたが、こういうことで廃車となったのは残念です。
さて阪神は試験走行中の5006Fが車止めに衝突したのはブレーキ操作の遅れが原因だったと発表しています。
速度を制御する装置などには異常はなかったということですね。
でも、「それぞれのデバイスに問題はなくとも、相性はよくなかったんじゃないか」
と ふと思ってしまいました。

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