「座席数日本一」 近鉄 20100系 あおぞら 珍車ギャラリー#130

「座席数日本一」 近鉄 20100系  あおぞら 珍車ギャラリー#130

1車両あたり148席。座席数日本一の電車 近鉄 モ20100形

日本一の座席数をもつ列車はといえば、言うまでもなくJR東日本の新幹線MAXでした。
中でもE1系MAXのE158形100番台は135席という座席数です。
ところが、この数をしのぐ148席もの座席を擁した車両が、新幹線ではなく近鉄に存在したのです。
オール2階建てのビスターカー20100系です。
オール2階建てといえば、これまたJR東日本に215系がいます。
これもまた120席と20100系には及びません。
ついでに言っておきますと、MAXのE158形100番台もモハ214も中間車です。
しかしモ20100形は、先頭車です。運転台のスペースもあるのです。
いったいどうやって148席もの座席を詰め込んだのでしょう。

近鉄 20100系ビスタカー(あおぞら号)① モ20100形 20102 撮影場所:高安

20100系には、6人掛けのボックスシートと4人掛けのボックスシートが並んでいます。
加えてシートピッチも狭く、一人分に割り当てられた空間は極めてコンパクトなのです。
近鉄は記録でも狙っていたのでしょうか。

それは違います。
実は、20100系は、修学旅行専用車として作られたのです。

私が小学生の時、大阪市内の小学生は、近鉄で伊勢志摩というのが定番だったように思います。
20100系は、子供たちを主たる乗客として想定した車両だったのです。
もっとも、小学生以外の団体を乗せなかったわけではありませんが、座席数を増やせたのはそういうわけだったのです。
20100系以降、修学旅行専用電車は新造されていません。この記録を塗り替える車両は、まず日本には現れないでしょう。


あおぞら号の思い出

私も大阪の小学生でしたから、当然のごとく、この20100系”あおぞら号”に乗車しました。
あこがれの2階建てビスターカーであり、かつ特別塗装で”あおぞら号”という名を持つ修学旅行専用の特別車両に…。

私の場合、中学時代の修学旅行は富士伊豆箱根で、往復は東海道新幹線でした。
小学生時代に 叔父たちから、国鉄の修学旅行専用列車「きぼう号」で東京へ行った話を聞かされていた私はうらやましくてならなかったものですから、中学では新幹線に変わったと聞いてがっかりしたのを覚えています。

でも私は”あおぞら号”には乗れました。
どれほど、あこがれ、楽しみにしていたことか。
どれほど、わくわくして乗り込んだことか。今も目に浮かぶようです。

しかし、時代は変わりました。

家族で海外旅行することも特別なことではなくなってきているのが現状です。
そんな昨今ですから子供たちにとって修学旅行は、もはや「あこがれ」とは言えないかもしれません。
修学旅行も遠出することばかりが自慢のタネとなり肥大化する一方でした。
海外への修学旅行も当たり前、国内でも移動は鉄道から飛行機へシフトしてゆきました。
よって国鉄はさておき、JRでは修学旅行専用車両は存在しません。
近鉄においても、20100系の後継車両が、新造されることはありませんでした。

ですが、小、中、高と学校時代で一番の楽しみは修学旅行です。
思い出に残るイベントであることには違いありません。
また修学旅行というもの自体も変わってきています。
物見遊山ではなく、体験学習形と称される中身の濃い修学旅行に変貌しつつあることも事実です。

そこで、移動手段である交通機関も中身のある”思い出作り”に一役買って欲しいと思うのです。

もっとも、旅先で見る子供たちの多くは、耳にウォークマン、その手にはゲーム機と日常のアミューズメントを持ち込むばかり…。
そんな彼らから、これらのものを手放させることは容易ではないでしょう。

でも、元来、旅は、非日常的なものであり、だからこそ新しい出会いに心躍らせるものなのです。
子供の時しか利用できない非日常的な車両として、最右翼に位置するのが、修学旅行専用列車です。
修学旅行の感想文に「あおぞら」号と往路に乗った2200系電車のことばかり書いて、先生に怪訝な顔をされた私のような人間はまあ別としても、子供たちには、鉄道の旅の楽しさ、魅力をもっともっと知って欲しいと思います。


次の「あおぞら号」は…。

20100系あおぞら号は、1993年にその役目を終えました。
後継車両としては、団体専用列車として、18200系「あおぞらⅡ」、そして20000系「楽」が近鉄に登場します。
修学旅行用列車としては、18200系「あおぞらⅡ」が、専らその任を引き継ぎました。
そして2005年には、12200系を改造した15200系 「新 あおぞらⅡ」にバトンタッチしています。
でも、彼らは特別仕様車とは言いながら、18200系あおぞらⅡと同様、在来型特急車両の改造車です。
2階建てのビスタカーでもなく、20000系「楽」ほどのインパクトもありません。
もっとも、15200系「新あおぞらⅡ」が修学旅行にも利用される団体専用車として登場したことを私はとてもうれしく思っています。
ただ15200系も、種車である12200系は1970年代に登場した車両です。
近鉄では、もはや古参の車両といえるもので、リニューアルされてはいるものの、今後、どれだけ活躍できるか気がかりです。

うちの娘(6年生)が広島へ修学旅行に行きました。一泊二日です。
行きは山陽新幹線。帰りは観光バスで、宿泊地を経由し、翌日倉敷のチボリ公園で遊んで帰るというコースです。
中学生(公立)の長男は、来年、沖縄へ行くそうです。もちろん飛行機です。贅沢になったものです。
近鉄に乗って伊勢志摩へ行く修学旅行も、その数はずいぶんと減っているのではないでしょうか。
いまや少子化も進んでいます。
修学旅行というビジネスにかつてのようなうま味はありません。
加えて前述したように今時の子供たちは、ビデオモニターや、カラオケ、スピードメーター程度では、満足してはくれません。
ハードのみならず、ソフトの面でも、どんどんアイデアをだしてゆかなければならないでしょう。

でもその先には、新しい鉄道の旅の魅力が生み出されているに違いありません。
鉄道で旅する楽しさを知る機会もなく大人になってしまう子供たちも多いのです。
今こそ、次世代の修学旅行専用列車を創り出して欲しいというのが私の願いです。

もはや近鉄という鉄道会社の枠を越えて、地元の観光業者に、コーディネート役の旅行会社、先生方 。
そして、子供たちにもアイデアを出してもらって…。
魅力あふれる修学旅行専用列車「あおぞらⅢ」をデビューさせて欲しいものです。
(新車で、できたらやっぱりビスタカーで…)

初出:2008年9月。

-鉄道車両写真集
  20100系  18200系 旧「あおぞらⅡ」 20000系「楽」 15200系「あおぞらⅡ」 へJUNP

 

珍車ギャラリーカテゴリの最新記事