「天空」南海 2200系(珍車ギャラリー #156)

「天空」南海 2200系(珍車ギャラリー #156)

こうや花鉄道プロジェクト-私鉄大手初のジョイフルトレイン-

南海高野線は、高野山鉄道が、1930年に開業した路線です。
高野山(極楽寺)-橋本間19.8km(以下、山線)については、霊峰高野山がなければ、
まずこのような山の中に鉄道を作ることは考えられないような山岳路線です。
人里離れた聖地に向かうぶん、この山線の地域自体は、元来収益の望めないローカル線であるということなんですが、そのぶん、大自然の懐となるわけですから眺めがいいのです。
この特性をを活かすべく南海電鉄では、ようやくこの路線を観光路線として売り出すことにしました。
”こうや花鉄道”プロジェクトです。

南海電気鉄道 31000系*特別仕様車「黒こうや」31001F  撮影場所:極楽橋

高野線といえば、特急こうや号です。
でも特急こうや号は高野山にむかう観光客のために作られたものであって、沿線の景色自体を楽しむというのは2次的な要素にしかすぎません。
また高野線には、2005年に登場した2300系という車両が存在します。
高野線の急行用車両である2000系のクロスシートバージョンとしてデビューしました。
かつては難波まで乗り入れるスジもあったのですが、難波行きの急行は混むので、今は専ら山線専用となってしまいました。
2300系は、眺望の良い大きな窓をもっており観光列車として売り出しても十分通用する快適な車です。
急行列車として使わなくなったのは、特急券を買って「特急こうや」に乗る人が減ってしまうから…?
冗談はさておき、こんないい車を使っているのに、山奥で人目につかず働いているのは、いかにももったいない話です。
私はこの2300系をもっとアピールしても良さそうなものだと思っていました。
しかし、南海は山線の魅力をもっとアピールするためにもっとインパクトのある車両が必要だと考えたようです。
こうや花鉄道プロジェクトの核となる2200系「天空」です。
沿線の景色自体を楽しむことを主眼に、もっと気合いの入ったイベント観光列車(=ジョイフルトレイン)を仕立てました。
私は団体列車のみならず、臨時列車、いや定期列車であっても、その列車に乗ること自体が、お楽しみとなる要素を持つものはジョイフルトレインと考えています。
このようなジョイフルトレインはJRや、ローカル私鉄には数多く存在します。
ですが、私鉄大手にあっては、天空が初めての試みとなるのではないでしょうか。

2200系「天空」とはこんな車両

南海電気鉄道 2200系 高野線用 2連 編成表
←難波②     極楽橋①→
形式:モハ2231-モハ2281
2208-2258(もと2203-2253)Mc1-Mc2
参考 私鉄車両編成表2011年版  撮影:2016.8  撮影場所:九度山

山線は高野山にむかって右側、すなわち川側のほうが見晴らしがいいので2200系「天空」では、こちらにワイドな窓を設置しています。
座席もこちら側の景色を楽しめるようにレイアウトしました。
そして、トロッコ列車がそうであるように、大自然の空気に直に触れてもらおうとオープンスペースを作ったのです。
さて、このオープンスペースこそ「天空」を特徴付けるものです。
なんと開口部が足下まであります。
もちろん柵はあるのですが、じつはこの部分、ドアを開け放っただけのものだったのです。
うまくやったものです。


実は、この「天空」は、在来車両の改造車なのです。種車は2200系。
もともと高野線の急行用として作られたズームカー、22000系車両を改造した車両です。
22000系は高野線用の新車である2000系のデビューにより、その活躍場所を奪われましたが、
小形であることと、2ドア車であることが幸いし、2200系に改造されることになりました。
多奈川線や羽衣線など、南海のローカル支線用に活路を見いだした車両です。

2203-2253編成が、なぜか2208-2258に

「天空」を改造するにあたっては、山線という特殊な環境で働けるだけのしっかりした足腰をもつ車両であることが大前提です。
なにせ20km足らずの道のりで443mの標高差を稼ぐのです。
最急曲線半径R=100、50パーミルという急坂を登り切るために、普通の電車は使えません。
でも22000系の足回りを継承した2200系なら問題はありません。
これら2200系のなかから2203-2253編成に白羽の矢が当たりました。
ところで、なぜそのままの番号ではなく、2208-2258という中途半端な番号を付けたのでしょう。
なんと下二桁の08は「橋本のは(8)」
58は「高野山のこ、や(5.8)」という語呂合わせなのです。
鉄道の車番については、各会社毎の思惑から様々にこれを付与しています。
先日、廃止されてしまいましたが三木鉄道の気動車は「ミキ180形」とかいう風に語呂合わせで形式名を付けました。
しかし形式名ではなく、車番自体に語呂合わせを適用した例を私は聞いたことがありません。
ちなみに「天空」の形式はモハ2231形-モハ2281形。全くつじつまがあっていません。
それはさておき、古巣の山線で当線の魅力をアピールするという大役を任された2200系「天空」は、なんという幸せ者でしょう。

けっこう人気の「天空」です。でも…

運行開始以来「天空」は結構な人気です。
2009年12月、小雪の舞い散る寒い日「天空」に乗車することにしました。
始発駅である橋本駅のホームには外国人観光客の方々をはじめ、多くの利用者がその出発を待っていました。
「天空」のスジは、従来の列車のスジとは別に用意されています。
そのため急行列車との連絡が出来ておらず、「天空1号(休日)」は、おすすめ接続列車(急行)で橋本駅へ着いてから41分も無駄な待ち時間を強いられます。
キップの発売窓口が橋本駅であり、あらかじめ電話で予約していても当駅で指定券に切り替えなくてはならないことから、その時間的余裕が必要ということなのかもしれません。
それにしてもこの待ち時間は長すぎます。乗客には何の意味もありません。
なんで、プラットホームでぶるぶる震えながら電車を待たねばならないのでしょう。
これでは、リピーターはつかめません。
ラピートやこうや号などと同様、各駅で指定券を購入できるようにするべきです。

だからといって、「天空」を特急に昇格させろと行っているのではありません。
むしろ定期の普通列車に併結させてみてはと思うのです。
JR西日本のジョイフルトレイン、「瀬戸内マリンビュー号」もイベント観光列車でありながら定期列車のスジを利用しています。
これと同じ発想です。
乗客が少なくとも、定期列車は走らせなくてはなりません。運行する乗務員は当然必要です。
「天空」でも同様、乗務員は必要です。
でも、普通列車に併結すれば、わざわざ乗務員の手当をせずとも運行でき、人件費も削減できます。
ただ「天空」を周年運行させるためには、もう1編成「天空2?」を登場させる必要があります。
そこで、これを2両編成の内、1両は指定席、もう一両は自由席車という。
JR西日本のイベント観光列車にならってみてはどうでしょう。
閑散期には、もっぱらこちらを使用し、現「天空」をこの時期、メンテナンスに回します。
そして繁忙期には、現「天空」と合わせて2編成をフルに使い、しっかり稼いでもらう。とこういうわけです。
ただ、ちょっと困るのが番号です。
指定席車は「空海のく(9)」。
自由席は、お供するわけだから「御供でごく(59)」でいいじゃないですか!

そんなことをしたら、2300系が余ってしまう?
いえいえそんなことはありません。
前述したように2300系は、観光列車となるに相応しい車両です。
南海本線でもとりわけ眺めのよい尾崎駅以南の路線に普通列車として区間限定運用させるというのはどうでしょう。
つまり、みさき公園行きの区急を尾崎止めにして、以南の区間を「南海マリンビュー号?」として2300系2連で運転するというものです。
できるなら、そのまま多奈川行きにするという手もあります。
または、現在の和歌山行き普通列車は、泉佐野駅であくびが出るくらい長時間停車(11分)します。
これを羽倉崎折り返しとし、その隙間に、サザンと空港急行に連絡する普通列車(和歌山-泉佐野)を「南海マリンビュー号」としてつっこむのです。
そして軌道に乗れば、これをジョイフルトレイン改造するのも、というのもオツなものでは…?

夢物語はさておき、一つ気がかりなことがあります。
「天空」には、常時2000系が併結されているということです。
22000系由来の「天空」は、1970年生まれ、通算すれば、経年40年ということになります。
山線という過激な環境で働くのにあたって、もはやその足腰では不安があるということでしょうか。
もしそのことが理由で2000系との併結が必要というのなら、なおさら、定期の普通列車としてそれを活用するのが経済的に思えます。

「天空」は鉄チャンにもうれしい、前面展望がたのしめる座席も用意されています。
一人でも多くの旅人に鉄道の旅の魅力を感じてもらうためにも
願わくば、より便利で魅力あふれる「天空」に発展していって欲しいものだと思います。

冬期は、閑散期ということもあって、「天空」は土日だけの運行になっています。
でも、冬景色の山線も捨てたものではありません。
例のオープンスペースは、その扉が閉められているのにもかかわらず乗客は車窓に釘付けです。
私は、是非、この「天空」を周年運行して欲しいものだと思っています。

初出:2010.1.1

参考文献;鉄道ピクトリアル 「鉄道車両年鑑2009」No825 2009.10 (同紙2009.8月号に掲載の内容)
「天空のパンフレット」 南海電鉄作成 2009.12

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