京阪800系は1997年10月、京都市営地下鉄東西線への直通運転用として導入されました。
といってしまえばそれまでなのですが、それは決して簡単なことではありません。
というのも800系は、京津線という日本屈指の急勾配路線を、それも併用軌道区間まで有する路線を走行するために作られたものです。
これに加え、地下鉄線内に適合しこれら全てに対応することを求められた特殊な車輌なのです。
まず、地下鉄車輌は当然のことながらトンネル内を走行します。
建設工事費用を抑えるためにも車両の断面積は小さく抑えたいところです。
そんな限られた空間に車輌をめいっぱい突っ込むには、突起物はないのが理想的です。
よって地下鉄車輌は、屋根上に搭載するクーラーを薄っぺらくして高さを抑えています。
また多くの地下鉄車輌にはパンタグラフがありませんね。
集電装置は集電靴として台車に取り付け、地上に設置されたサードレール(第3軌条)から集電するのも車体の高さを抑えるためです。
800系は言うまでもなく、東西線用の京都市交通局50系と車体のサイズを合わせています。
車体の高さは3475mm、床の高さは900mmです。
普通の鉄道車両の場合、車体の高さは4000mm(パンタ下げ時)ぐらい、床の高さは1100~1200ぐらいが標準なので、
いかに低く抑えられているかがお解りいただけると思います。
ところが800系は,前述したように併用軌道区間を有する京津線用車輌です。
まさか道路上にサードレールを取り付けるなんてことはできません。
それどころか車道を走る大型車輌の通行に支障を来さないために架線は高く張られているのです。
低く抑えられた車体に、普通のパンタグラフを搭載したら、悲しいかな架線に届きません。
そこで800系は、京阪初のシングルアームパンタグラフ(PT-7201)を導入しました。
かつて珍車ギャラリー115系2600番台のところでもご紹介しましたが、
シングルアームパンタグラフはコンパクトに折りたためることから、小断面のトンネルにも対応できるのです。
画像をご覧ください。
併用軌道区間を走る800系ですが、シングルアームパンタグラフの大きさが際立っていますね。
ちなみに京都市交通局50系は、菱形パンタグラフを採用しています。
京津線での運行は全く考えられていないことがここからもわかります。
ところで、800系と50系のスペックを見ていると、車体重量の違いが目につきます。
800系の方が圧倒的に重いのです。
M車で比較すると 50系(24~25t)がステンレス製なのに対して800系(28t)が普通鋼製だからです。
路面を走行する電車は、接触事故の可能性から逃れることはできません。
いかにベテランの運転手でも、相手は自動車です。
よって補修に手間のかかるアルミやステンレスは使えません。
もっとも、事故を未然に防ぐ対策も講じられています。
下の画像をご覧ください。少し見づらいのですが、車幅灯がわかるでしょうか。
京津線内では従来型の保安装置である京阪形ATSを使用します。
しかし運転の自動化を進めた地下鉄東西線内はATOです。
当然、両方搭載しなければなりません。
その他、ホームドア対応回路、誘導無線およびホーム監視装置なども搭載しました。
そこまでして、地下鉄線内に乗り入れる意味があるのでしょうか?
東西線の開通によって、京津線の西半分が廃線となりました。
輸送需要だけで考えれば、石山坂本線の2連をそのまま山科まで乗り入れさせ、
山科で地下鉄に乗り換えることで、一件落着となりそうなものです。
しかし、京阪電気鉄道は、800系を導入することで、三条から乗り換えなしで浜大津へゆけるルートを確保しました。
なぜでしょう。それは、京阪のネットワークを分断させるわけにはゆかなかったからです。
京阪電気鉄道は、京津電気軌道、琵琶湖鉄道汽船を合併し、京阪本線直通の「びわこ号」まで登場させました。
分断は、そんな京阪の歴史を否定することにもなるのです。
初出:2015/05/31
参考文献 鉄道ピクトリアル 新車年鑑 1998年版 No660
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