「ダブルデッカー」京阪 3000系 3805 (珍車ギャラリー#075)

「ダブルデッカー」京阪 3000系 3805 (珍車ギャラリー#075)

京阪特急 最後の3000系-なぜ3505編成だけが生き残ったのか。

 私にとって、京阪特急といえば、3000系です。
阪急京都線沿線に住む私にとっては京阪に乗ること自体が少なく、馴染みもないといえばそうです。
しかし、なかなか乗れないだけに鴨川べりをしずしずと走る、ライトオレンジとカーマインレッドの特急専用車-3000系の姿に憧れる気持ちが強くありました。
ある日、辛抱できずにわざわざ京阪廻りで京都へ行ったとき、当然、この3000系に乗車しました。
淀屋橋の駅で一斉に転換する座席に思わず「おおっ。」と声を上げ、横置きシリンダーで2レバー式の運転台に目が釘付けになったのも懐かしい思い出です。
しかし、3000系は、わずか20年ほどで主役の座を8000系に譲ることになるのです。

京阪四条をゆく3000系 3008

撮影 四条

-いったい何故でしょう。

1989年10月。鴨東線の開業により、京阪特急は、出町柳が起点となりました。
このことで不足する車両を補うために開発されたのが、8000系です。
老朽化した?3000系を淘汰するのが目的だったわけではありません。
とはいえ競争の厳しい京阪間において、3000系の後継となる8000系はやはりハンパではありませんでした。

京阪 8000系07F① 8000形Mc1 8007(旧塗装)

撮影 枚方市 2008年9月

ブロンズ色の大型連結窓はゴージャスで、3000系譲りの美しい内装と相まって大幅にイメージアップがなされました。
また6連が主体だった3000系にあっては、この8000系の中間車が、組み込まれオール7連となったわけですが、同一編成に組成されてしまったことで、あの名車3000系でさえ見劣りがしてしまうことになりました。

このことが、3000系の引退を早めた理由ではないかと思うのです。
実際、この混結編成は、2年ほどで解消されるのですが、その分3000系は姿を消してゆくことになります。
わずか20年ほどで姿を消してゆくそのウラには、鴨東線の開業が大きく影響しているものと思われます。

阪急の特急専用車 2800形が通勤形車両と姿を変え存続したのに対し、より特急用として特化した3000系は1900系のように改造されることもなくひっそりと姿を消してゆきます。
車齢が若いこともあって、富山地方鉄道や大井川鉄道に一部引き取られますが、短編成で狭軌の台車を履く3000系はやはり哀れです。
富山地方鉄道で10030形となった3000系にも乗車しました。
健気にもローカル列車用としてワンマン運用に就く彼女らでしたが、明らかに色あせた車内に涙が出そうになりました。

富山地方鉄道 10030系 43F 10044

撮影場所:稲荷町 1997年8月

1993年 3連+4連
三条 淀屋橋
3505 3105 3005 3506 3606 3106 3006
3507 3107 3007 3508 3608 3108 3008
Tc M Mc Tc M Mc

 

1995年12月 8000系と共通化改造 7連
三条 淀屋橋
3505 3105 3205 3755 3855 3155 3055
Tc1 M1 M2 T1 TD M3 Mc2

*3006(Mc)→3055(Mc2)に。
*3108(M )→3155(M3)に。(3055とMM’ユニットを組む)
*3106(M )→3205(M2)に。(3105とMM’ユニットを組む)
*3606(T)→3855(TD)に。
*3506,3005
→保留車

1998年3月  8連化
三条 淀屋橋
3505 3105 3205 3805 3755 3655 3155 3055
Tc1 M1 M2 TD T1 T2 M3 Mc2

*3855(TD)→3805(TD)に改番。(位置変更)
*3506(Tc)を3655(T2)に改造,
もう一台の保留車3005は廃車

そんな不遇な仲間たちがいる一方で、まだ1編成だけ、3000系が特急用として運用を続けたのが3505編成です。
どういうわけか3505編成だけが、改修工事を施され、8000系と同等品で足回りを固め内装も一新したのです。
95年12月以来、10年以上、京阪特急は8000系×10編成に、3000系×1編成を充当する体制となりました。

京阪 旧 3000系リニューアル車 3505F

撮影場所:丹波橋 2008年6月

-でもなぜ、1編成だけ?

鉄道ピクトリアル#695や、新車年鑑などでは、検査態勢の見直しなどの事情により、特急車の予備車率を高める必要があったとされていますが、ひょっとして、その鍵を握るのは、今回ご紹介する3805ダブルデッカーではないかと私は思っているのです。

鴨東線の開業により、便利になった京阪特急ですが、京都における中心的ターミナルである三条からでは、座れないという困った事態が生じてしまいました。
今は枚方市など途中駅にも停車するようになりましたが、かつて京阪特急は、七条を出ると京橋までノンストップです。
七条で座れなかったときは本当に悲しい。
スピードだけでいえば、JR京都線にも阪急京都線にも勝てない京阪特急です。
座れるというサービスを提供することは重要なことなのです。
そのためには、列車を増発するか、編成両数を増やすという手があります。
しかし、いずれにせよ、車両数を増やす、設備を改めるなどコストがかなりかかってしまいます。
そこで、もっともお手軽な方法といえば、車両の座席そのものを増やすと言うことになるでしょう。
そこで浮上してくるのが2階建て車両です。
もっとも、乗り降りに時間がかかるなど運用上の問題に加え、車両の構造にも問題がないわけではありません。
軌道線がルーツである京阪において、車両の基本サイズはJR等よりも2M短い18M級です。
台車間に十分な2階建て部分を確保できるのか?
2階建て車両自体は、近鉄のビスタカーをはじめ、決して珍しいものではありませんが、京阪において、それが吉と出るか。凶と出るかは大問題だったわけです。

でも、2階建て車両が可能なら、それはやはり乗客の注目を浴びます。
京阪は、独自に試作車を製作することで、この夢にチャレンジしたのです。
ここで、退役途上の3000系に白羽の矢が当たったというわけです。3606を種車に大改造が始まりました。
京阪の車両は、川崎車両およびその後継会社であるの川崎重工製でそのほとんどを占めます。
その一方で、京阪は2600系など車体を更新するカタチで、自社工場において新たに車両を作り出せる技術を持っているのです。
この技術が遺憾なく発揮されたのが3805(登場時は3855)ダブルデッカーです。
もちろん単に座席を増やしただけではありません。座り心地にもこだわり、ノルウェー製のシートを導入しました。
外観についても視線の高さにあたる部分が間延びしないよう、時代祭の行列イラストを取り入れました。

京阪_3000系(旧)リニューアル車 3505F④ 3800形 TD 3805 ダブルデッカー

撮影場所:丹波橋 2008年6月

95年12月。3855ダブルデッカーを含む3505編成は、デビューしました。
大人気だったのはいうまでもありません。
8000系にあっては、3855で得たノウハウを駆使し、97年より8801形ダブルデッカーを増備、8両編成となりました。
3000系も保留車だった3506(Tc)をT化し8連化、体制が整います。

もし、京阪がダブルデッカーの試作車を自社で作り上げるだけの力がなかったら、また仮に、出来たにせよ、3855ダブルデッカーが失敗作だったら、3000系最後の一編成は、もう京阪から姿を消していたのではないでしょうか。

8000系が名車であることについて異論はありませんが、私個人としては3000系のほうが魅力的です。
その端正なスタイルと上質な内装で京阪特急のステイタスを一気に高めた3000系は、3805(8連化と共に編成替え→改番)
ダブルデッカーを加えたことで、ますます魅力的な存在となりました。


3505Fは、2008年10月の中之島線開業に際し投入された新型車両3000系に車番を譲った格好で8531Fに改められました。
外見こそ旧3000系ですが、3505Fの主要機器類は8000系と同様に改められていますので、この編入は納得できるところです。
でもなんかちょっと悔しい気もします。

京阪 8000系30番台 8531F④ 8830形 TD 8831 ダブルデッカー

京阪 8000系30番台 8531F① 8530形Tc1 8531

撮影 枚方市 2008年10月


2013年4月、8531Fが廃車された後、7月にダブルデッカーの8831は富山地方鉄道に譲渡されました。
サハ31となった8831は10030系33Fに組成され、8月に「ダブルデッカーエキスプレス」として再デビューしました
現在も富山地方鉄道の主力車両として運用されています。
京阪特急色にお色直しした先頭車(10033、10034)はとてもうれしそうな表情をしているように見えました。
ダブルデッカーの存在は大きいと思わざるを得ません。

富山地方鉄道 10030系33F   ダブルデッカーエクスプレス

富山地方鉄道 10030系 ダブルデッカーエクスプレス

 撮影:稲荷町 2015年3月

参考文献 鉄道ピクトリアル 特集 京阪電気鉄道
No281 1973.7 No427 1984.1       No695 2000.12 No822 2009.8

初出:2006.12.17

-鉄道車両写真集-  
8000系 8000系リニューアル車+プレミアムカー編成 8000系30番台  旧3000系 新3000系へJUNP

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