EF200は、JR貨物が導入した電気機関車で、6,000kWの大出力を誇る”最強の電気機関車”です。
しかし、製作は21両で終了し、2019年3月をもって全車が運用から離脱しました。
国鉄時代に製造されたEF65が2021年現在まだ頑張っているのに、これは一体どういうことでしょう。
EF200形が登場した背景。
1987年のJR移行時、JR貨物は多数の機関車を承継しました。
直流電化区間ではEF65・EF66を主として用いることとなりましたが、それでは足りず、国鉄形のEF66を改良した-100番台を新たに製造します。
景気がよかった当時のことです。これからの貨物列車の需要拡大を見越し、重量級・長編成向けの大出力機をJR.貨物としてデビューさせようということになったのです。
これがEF200です。
1990年3月に試作機-901が日立製作所で完成。
EF200の活躍場所である東海道、山陽本線は、旅客列車が高速高頻度運転を行っています。
これらを妨げることのない高加速と最大 1,600 t の重量列車牽引を両立させるため様々な新技術が盛り込まれました。
まずはパワーです。FMT2かご形三相誘導電動機の出力は1000 kW。
これをを6基搭載、6000kwとしました。
この大出力化を可能にしたのがVVVFインバータ制御。
(GTOサイリスタ素子式で1C1M方式)
無段階連続制御が可能となり、定速制御ボタンも設けられました。
(従来の機関車と操作をあわせ、便宜的に25ノッチ刻み)
このハイパワーをもって10 ‰ 勾配で 1,600 t列車を 牽引。
25 ‰ 勾配でも1100 t の引き出しを可能としたのです。
台車はボルスタレス式のFD3形(両端)FD4形(中間)。駆動方式はリンク式です。
これにより ばね下質量を従来のツリカケ式の50%に低減、高速走行性能をUPしました。
(設計最高速度は 120 km/h、定格速度は 81.2 km/h)
ブレーキ装置は国鉄・JR機関車で初となる電気指令式。
26 km/h 以上では発電制動が有効、20 km/h以下では空気ブレーキに切り替わります。
編成ブレーキシステムは自動空気ブレーキではありますが、高速貨車牽引用に電磁ブレーキ指令装置を装備します。
なお集電装置は、国鉄・JRの機関車では初めてシングルアーム式のFPS2パンタグラフを装備しました。
これだけのものを投入して、運転整備重量は100.8t、これはEF66形(3900kw)と全く同じです。
すごいですね。
300系新幹線もそうですが、JRの発足時、好景気の追い風を受けて各車両メーカーは総力を挙げて革新的な車両を提案しています。
そしてそのテクノロジーの核となるのがVVVFインバータ制御でした。
1992年から量産され東海道・山陽本線で使用を開始しました。
しかし実際にEF200形をフルパワーで走らせてみると、変電所の容量が足りず、
架線電圧を下げてしまい、ほかの列車の運行に影響を及ぼすことが判明したのです。
当初予定していた1,600 t 牽引は実現できずEF200は出力を制限して運用することとなりました。
それにしてもなぜ量産に踏み切ったのでしょう。
変電所を強化するなり、増設するなりして何とかしようと考えたのでしょうか。とはいえ、
自社の列車運行にとってリスクしかないEF200 を旅客会社が受け入れるわけがないではないですか。
加えてJR貨物にとってもコキ32両相当となる長大編成の1600t列車を受け入れる駅設備を整備しなければならないわけです。
折しもバブル崩壊。到底それだけの需要増は望めません。製作は1993年21両で終了しました。
--過ぎたるは及ばざるがごとし--
というわけで、ご紹介したい機関車があります。
EF500形交直流電気機関車
EF200形と同時期(1990年7月)に、こちらは川崎重工業で試作機 (901) が落成しました。
東北本線-津軽海峡線・日本海縦貫線などでの使用を想定した交直流電気機関車です。
EF200形同様VVVFインバータ制御(GTO 1C1M方式)、主電動機も出力1000 kWのFMT1です。
(ただし駆動方式はツリカケ)
EF200-901と同じく様々な試験が行われました。
しかしこちらでもEF200形と同様、電力供給能力不足で架線の電圧降下が頻発。
また、使用を想定した線区に見合わない高出力機であったことから、こちらは量産されることはありませんでした。
こちらも--過ぎたるは及ばざるがごとし--
というわけですね。
1994年以降は使用されることなく、2002年に廃車されました。
そこで日立は矢継ぎ早に次の手を打ちます。
ED500形交直流電気機関車。
1992年に-901が「ED-X」として落成しました。
EF200-901とは違い所有権は日立製作所のまま、JR貨物に貸し出され、ED500-901に改称の上、試験運用しました。
EF500形では日本海縦貫線や東北本線・津軽海峡線などの輸送量に見合わないことから、4,000kW級の機関車として日立が提案したものです。
EF200形同様VVVFインバータ制御(GTO 1C1M方式)、主電動機も出力1000 kWです。
これならEF200 で築いた資産を有効利用できます。
これがうまくゆけばED200 に繋げることができたかもしれません。
しかし、やはり1000kwモータは強力すぎました。空転が頻発したのです。
ED500-901は除籍・返却され、人知れず解体されました。
これ以後、日立製作所は電気機関車を製造していません。
数字の上ではうまくいくはずだったのですが…。
しかしこの失敗体験が、現在A-trainに活かされているのではないか。とも思います。
EF200形のその後
以後そのまま、EF200は本来有する出力を出せず。-901は2016年3月に廃車されてしまいました。
新機軸を採用した新型形式は、機関車に限らずこれまでの電車や気動車においても短命となってしまった例はいくつもあります。
しかしながら、いくら試作機とはいえ、実用に供されたのです。
登場からわずか25年での引退は早すぎるようにも思えます。
先代に当たるEF66形の試作車901号機でも2001年の廃車までに実に35年は活躍していたわけですから、もう10年~20年程度は活躍を続けられそうなものです。
しかし、このまま本来の力を出せないのなら…。EF200としての存在価値はないわけです。
「未練はないわ。」
と彼女は割り切って引退したようにも思えます。量産車も同じ思いだったでしょう。
日立が機関車製造事業から撤退したことから保守部品の確保も難しくなってしまったこともあり2019年3月をもって全車運用から離脱することになりました。
-901については勝田駅西側の日立製作所水戸工場内に保存されています。
保存にあたり登場時の塗装に戻されました。
参考文献:鉄道ピクトリアル 新車年鑑 1991年版 #550
鉄道ピクトリアル 新車年鑑 1993年版 #582
日立評論 VOL.73 No.3(199l)
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