「提案型の鉄道ビジネス」JR貨物 ED500-901(珍車ギャラリー#399)

「提案型の鉄道ビジネス」JR貨物 ED500-901(珍車ギャラリー#399)

提案型の鉄道ビジネス。ED500-901

ED500-901は1992年に日立製作所水戸工場で落成しました。
車番から4軸駆動の交直流電気機関車の試作機ということがわかります。
ただ、すでに新型の交直流電気機関車としては、EF500形が運用試験を行っていました。
さてその2年後にED500形が運用試験を始めたのですが、所有権は日立製作所のままJR貨物に貸し出されるカタチでスタートしました。
どういうことでしょう?
実はEF500は試験結果が思わしくなく、その隙間をぬって日立が自社製品をアピールすべく製造した機関車、それがED500だったのです。
では次に先行試作機であるEF500についてみてゆきましょう。

EF500-901

JRへ移行する前後、日本は好景気に沸いていました。
じり貧だった貨物輸送も輸送力増大へ舵を切るチャンスが訪れていたのです。
当時JR貨物は多数の国鉄形電気機関車を承継していましたが、JR 貨物は新時代をになう後継機を開発する好機を迎えることになったのです。
それがEF200形とEF500形です。
東海道、山陽本線を主とする直流区間用のEF200に対し、EF500は東北本線、津軽海峡線・日本海縦貫線などの交直流区間用として1990年7月に三菱電機・川崎重工業で試作機 (901) が製造されました。
対象区間においては直流1,500 V・交流20 kV (50 Hz/60 Hz) の3電源に対応しなければなりません。
従来は異なる電化区間ごとにEF65形←→ED75形(重連)←→ED79形(重連)(※東北本線の例)のような機関車交換が行われていました。
これを1両の機関車で通し運用できれば時間も手間も削減できます。メリットは大きいですね。
基本的なスペックはEF200とおおむね同じです。すなわち
制御装置はGTO素子を用いた電圧式パルス幅変調 (PWM) 方式VVVFインバータ、1台のインバータで1台の主電動機を駆動する1C1M方式を採用しました。
主電動機は定格出力1000 kW のかご形三相誘導電動機FMT1形です。
EF65をはじめとする国鉄の電気機関車で標準的に採用されていたMT52の定格出力は425 kWでしたから、2倍強のパワーとなります。
よって6,000 kWのパワーでもって1000~1200 t(20 – 24両)のコンテナ列車を最高速度120 km/h で牽引(平坦地)し、26 ‰ の勾配でさえも1,000 t を牽引して55 km/h 以上の運転を可能としたのです。
(主電動機の装架方式はEF200とは異なり、従来形の吊り掛け式となっています。)
しかし6,000kWの高出力に対して、使用路線における変電所などの電力供給能力は追いついていませんでした。
日本一の大幹線である東海道本線でさえEF200は変電所キラーと称されていたのです。
もともと無理な話でした。
また、EF500の使用線区での輸送量に対して、それだけのパワーが必要なのかと言えばさにあらず、結果EF500は量産されることはありませんでした。
EF500-901は1994年以降、使用されることもなく、2002年に廃車されました。

JR貨物 EF500-901 

ED500-901

というわけで、日本海縦貫線や東北本線・津軽海峡線などの輸送量に見合う出力となるED75形重連相当の4,000kW級の機関車として日立が設計・提案したのがED500形交直流電気機関車というわけです。
EF200は日立製です。これに引き続きED500でも受注ができればJR 貨物の電気機関車を日立がほぼ独占できます。
ED500の制御方式はEF200と同様、GTO素子VVVFインバータ、1C1M方式です。
主電動機も出力1000 kWです。台車もEF200と同タイプのボルスタレス台車です。
EF200で築いた資産を有効利用しました。車体もEF200を縮小したスタイルで、塗色はブラック、前照灯は丸型、パンタグラフはもちろんシングルアーム、そして側扉に赤色をアクセントに配するというおしゃれな出で立ち…。私はカッコいいと思います。

ところが、動輪上重量の軽さから空転が頻発し、所期の性能が発揮できなかったのです。
ED500の軸重は16.8t(67.2t/4)で   EF200(100.8t/6)と同じです。
しかし、東海道、山陽本線と日本海縦貫線や東北本線・津軽海峡線では事情が違います。
とりわけ冬季、凍てつく線路に容赦なく雪が降り積もります。秋の落ち葉も侮れません。

ちなみに ユーロスプリンター(独:シーメンス)がベースとなる韓国鉄道公社8100形電気機関車(1998年製)は1300kw×4の電動機を有しますが、車体重量は88t。軸重は22tです。
車両を軽量化するのは大変ですが、重くするのは簡単です。
かつて、D52形蒸気機関車が戦後、ブロックなどの死重を積んで空転対策をしています。
でも、ED500におもりを積むなんてことはできません。
国鉄時代の話ですが、東北本線(黒磯以北)でさえ路線規格は2級線。
軸重は17tに、最高速度も100km/hに制限されていました。
ヨーロッパや韓国ではそのほとんどが1435mmの標準軌です。
対して国鉄の在来線は1067mmの狭軌路線です。
JR貨物では重量のある高出力の機関車をおいそれとは導入できないのです。
ED500-901は1994年末ごろまで試験運用されたものの量産機は製作されず、除籍・返却されてしまいます。

JR貨物 ED500-901

日立は負けてはいない

思えば日立はコンパクトな車体に交流機器を加え、なお軸重を抑えていたのです。
それが裏目に出るとは…。

日立は電車用に超多段制御のMMC-HTB-20Eなどを大手私鉄に供給してきました。
今回よりスムーズな加速を可能にするVVVFインバータ制御で空転を抑え込めると考えたのかもしれません。

その後、東北本線・津軽海峡線向けには4000kwのEH500形が東芝で、日本海縦貫線向けには3390kwのEF510形が川重で量産され、日立製作所は機関車製造事業から撤退しています。
JR貨物の電気機関車を一手に引き受けられないのなら引き下がるという判断でしょう。
それはそれで私は正解だったと思います。

かつて国鉄車両はオーダーメイドでした。ところが民営化され、国鉄との共同開発というシステムがなくなってしまいました。
21世紀ともなると車両はメーカーが開発、製造し それを鉄道会社が買うという、レディメイドのスタイルへと変化してゆきます。
提案型の鉄道ビジネス。日本でその先駆けとなったのが、日立のED500ではないでしょうか。
当時、1台の完成品として車両を供出することは、やはりリスクが高すぎましたかもしれません。
しかし、日立はED500でもって、これからの鉄道車両製造会社のあり方をどこよりも早く世に示したのです。
このインパクトは大きいと思います。
以後、日立はこの姿勢を 電装品さらに運転台部分やトイレまでも、別工程で組立てたモジュールとし、これを規格化された車体に艤装するシステムに発展させてゆきました。
このことでコストダウンのみならず、様々な鉄道会社の要求に応えるというやり方を提唱。日立はA-trainのブランド化に成功しました。
そしてそのノウハウをもって、世界に打って出ようとしています。

2021年12月、イギリスで建設が進む高速鉄道「ハイスピード2(HS2)」向けの車両を、日立レール(本社機能をイギリスに置くグループ会社)とフランスのアルストムの共同事業体が受注しました。

高速列車の技術を生み出し発展させてきた日本ではありますが、それを海外に売り込むということがなかなかできずにいました。
鉄道車両の製造で豊富な経験を持つ日本こそが提案型鉄道ビジネスの先頭に立てると私は思っています。

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