「日本車輌の戦略」秩父鉄道 サハ352 アルミカー (珍車ギャラリー#105)

「日本車輌の戦略」秩父鉄道 サハ352 アルミカー (珍車ギャラリー#105)

日本車輛は 中京圏に本拠地を置く鉄道車両メーカーです。
そんなわけで地元の鉄道会社である名鉄や名古屋市交通局のほぼ全ての車両が日本車輛製なのは とても納得できることです。
ところが 名鉄も 名古屋地下鉄もアルミカーの導入には消極的でした。
名古屋市が1960年に5000系をようやくアルミカーで登場させたものの 名鉄にいたっては とんとその姿を見ることはありませんでした。
しかし、地元の供給先がどうであれ日車は先進技術の導入に意欲的でした。

山陽 2000系 2013

川崎車両製のアルミカー 山陽電鉄 2000形

アルミカー導入の第一号は1962年の山陽電鉄 2000形アルミカー です。
これは川崎車両(現川崎重工)が西ドイツの車両メーカーから技術導入して製作したものです。
対して日車では その翌年である1963年には北陸鉄道にモハ6011形アルミカーを納入しました。

大井川鉄道 6011(もと北陸鉄道)

日本車輛製のアルミカー 北陸鉄道 モハ6011

北陸鉄道モハ6011は 山代温泉などの温泉地に観光客を誘致する目的をもったクロスシート車です。
「しらさぎ号」と命名されたそのスマートな車体は今もなお十分に通用するほどのかっこよさです。
外板にあらかじめアルマイト処理した幅の狭い押し出し形材を使用するユニークな構造でそのオリジナリティを世に問いました。
日立、近車、東急といったところがアルミカーを試作したのが1967年~68年といったところですから4,5年は前だったことになります。2番目とはいえ凄い。
日本車輛のお膝元でアルミカーが量産されなかったのは残念なことですが、かねてから地方鉄道向けに標準型車体を多く供給していた(新潟交通、松本電鉄など)日本車輛は軌道の負担が小さい軽量車両を提案してゆくことで市場の拡大を画策していたのかもしれません。
しかし 北陸鉄道 モハ6011の足回りは旧型で台車等を含め機器は重く、軽量さで売り出すにはすこし問題がありました。
そこで3年後の1966年。 日車は 2番目のアルミカーとして秩父鉄道のサハ352を製造しています。
秩父鉄道のサハ351形は、デハ300形のサハ(付随車)です。
でもサハ351は普通鋼製です。なぜサハ352だけがアルミカーとなったのでしょうか。

日本車輛製のアルミカー  秩父鉄道 サハ352

秩父鉄道 300系 サハ352

サハ352(アルミカー) 1966年日本車輌 製
長さ(m)幅(m)高さ(m)自重(t):20.00×2804×3812 22.5t
ブレーキ:HSC 定員(座席):130(80)冷房機:なし 台車(製造)NA-319T(日車)
:出典は保育社刊「日本の私鉄19 南関東甲信越」の車両諸元表

サハ352の動力車となるデハ300形は「 しらさぎ号」同様観光用を意図して製作されたクロスシート車です。
急行用車両として登場し当時としてはもちろんエース的存在でした。
同系の車両として、長野電鉄2000形、富士急行3000形が挙げられます。
300形1次形は「しらさぎ号」より3年前となる1959年に登場しています。
スチール製ではありますが ツリカケ駆動ではなく カルダン駆動です。

300形の第2編成である303-304には 空気バネ付きのNA-301形台車が取り付けられ 乗り心地の向上が図られました。
空気バネ付きの台車は まだまだ試作の段階でした。国鉄においても一部の特急車両にしか導入されていない時代です。
秩父鉄道のサハ352は そんな300形第2編成の増備車としてデビューしたのです。
その流れをうけて サハ352に装着されたNA-319T 形台車にも 空気バネが用いられています。
つまり300形第2編成は、日本車輛が次世代の車両として世に問うた試作車ユニットといえそうです。

サハ352はデハ300形のサハですから軽いのは当然といえば当然ですが、20m級の大型車両でありながら、22.5tと軽量です。
全く同形の鋼製車サハ351が26.9tですから やはり軽いと申し上げるべきでしょう。
サハ351は比較対象とするために作られたのかもしれませんね。
やはり日車が目指す市場は、都市圏の大手私鉄。そして国鉄だったような気がします。
1966年。国鉄は301系アルミカーを登場させます。
国鉄初のアルミカーであるとともに、通勤電車としては初めての空気バネ付き台車DT-34 を装備しました。
受注したのは、川崎車両と日本車輛の2社です。

301系 アルミカー 国鉄色→JR東日本

日本車輛においてはこのサハ352の実績があればこそ、国鉄301系アルミカーの受注につながったと思えるのです。

初出:2007年9月8日

参考文献;鉄道ピクトリアル No620 関東地方のローカル私鉄 「秩父鉄道」
;鉄道ピクトリアル No354 アルミ.ステンレス車体特集
;鉄道ファン No294 特集アルミ.ステンレスカー 「ライト級のチャンピオン アルミカー」里田 啓氏


サハ352は1997年3月 廃車され解体されました。

-鉄道車両写真集-
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