「スルーされた820番台 」近江鉄道 800系 820番台 珍車ギャラリー#455

「スルーされた820番台 」近江鉄道 800系 820番台 珍車ギャラリー#455

同系列の電車で最も長期間にわたって製造されたのは何系でしょうか。
真っ先に考えられるのは製造されたその総数が3447両となる国鉄103系ですね。
1963年に試作車である900番台が登場し トリとなる1500番台がその製造を終えたのは1984年ですから21年間ということになります。
ローカル私鉄ではどうでしょう?
近江鉄道800系です。1993年に801Fがデビューしトリとなる811Fが登場したのは2009年で16年間ということになります。103系には及びませんがすごいですね。
ただし103系と800系には大きな違いがあります。103系は新車ですが800系は西武401系が種車となる改造車です。
401系の廃車が始まったのは1990年で401Fから、最後に廃車されたのは415.417Fで1997年です。
1991年に廃車となった403F が1993年に801Fとして再デビューしたというのは至極納得できるところですが、トリとなる811Fが登場したのは2009年。811Fは96年に廃車された411Fが種車ですから13年間も塩漬けにされていたことになります。これもすごいですね。
それにしても なぜ15年以上の永きにわたり作り続けられたのか?(1993~2009年)まず800系の種車となる西武401系についてお話しします。

401系はもともと1964~68年にかけて新製された411系(クモハ411+クハ1451)という2両編成の電車でした。
しかし新造とはいってもツリカケ駆動でモーターはMT-15。台車はTR-14A(Mc)、TR-11A(Tc)とその足回りは旧型国電をそのままリサイクルしたというものでした。
主に支線区間で短編成で走るのだからこれで十分というわけでしょうか。いえいえ411系は701系、801系の増結用として新宿線、池袋線でも活躍しました。とはいえさすがに旧型国電の足回りでは対応できず まず1972年にMc車のみエアサス台車のFS-40に取り替えました。そして1978~80年には車体を再度活用し新性能化されることになったのです。今度は1C8MのMM編成となり401系(クモハ401奇+クモハ402偶)と形式を改め平行カルダン駆動のエアサス台車 FS-372を装備しました。イエローの新塗装もまばゆい冷房車として面目を一新したのです。

本線の増結用車両としてパワーアップされた401系は末永く西武で活躍するのだろうな。と私は思いこんでいました。ところが10年後の1990年には新2000系の導入により401系は西武を逐われることになったのです。
「なんで、こんな勿体ないことを あの西武が…」と思っていると、なんとそのすべて(全38両)が他社に譲渡されているではありませんか。
(下表参照:鉄道ピクトリアル「特集 西武鉄道」No560 1992 *811Fのデータを追加しています 。斜字は801系タイプの新車体。太字は近江820番台)

西武 411系竣工401系竣工 廃車   譲渡先:車番        入籍
401+402 1964 1978  1990/9  三岐:クモハ102クモハ101  1990/12
403+404 1964 1978  1991/21  近江:モハ1801モハ801   1993/6
405+406 1964 1978  1991/3  三岐:クモハ104クモハ103  1991/6
407+408 1964  1978  1992/5  上信:クモハ152クモハ151  1992/11
409+410 1965  1978  1993/1  三岐:クモハ106クモハ105  1993/6
411+412 1965  1979  1996/12  近江:モハ1811モハ811   2009/4
413+ 414 1965  1979  1995/4  近江:モハ1807モハ807   2002/3
415+416  1965  1979  1997/3  近江:モハ1803モハ803   1999/3
417+418 1966  1979  1997/3   近江:モハ1805モハ805   2000/1
*419+420は近江に譲渡されましたが部品取りとなり近江812Fは結局日の目を見ず。
421+422 1967  1980  1996/12  近江:モハ1806モハ806   2000/3
423+424 1967  1980  1994/4  近江:モハ1804モハ804   1999/6
425+426 1967  1980  1994/4  近江:モハ1802モハ802   1999/3
427+428 1967  1980  1997/3 近江:モハ1810モハ810    2005/3
429+430 1967  1980  1994/4  近江:モハ1821モハ821   1997/3
431+432 1967  1980  1994/4  近江:モハ1822モハ822   1997/3
433+434 1968  1980  1995/4  近江:モハ1808モハ808   2002/1
435+436 1968  1980  1995/4  近江:モハ1809モハ809   2003/11
437+438 1968  1981  1996/12  近江:モハ1701モハ701   1998/5

401系は411系の古い車体から改造されており車番と改造順が前後することはありません。ただし廃車時期にはバラツキがあり譲渡先でのデビューもバラバラです。

それにしても大手私鉄の車輌1系列 その全てがすべて他社へ引き取られたというのは他に例をみないものです。
ひょっとしたら、遠からず他社へ譲渡することがわかっていて西武は401系化を進めたのではないかと思うほどです。

西武401系は上信電鉄に2両、三岐鉄道に6両引き取られ 近江鉄道には残り30両が引きとられています。(30/38両)
近江鉄道以外の2社が譲渡された直後に車輌を入籍運用しているのに対し近江鉄道では最低でも 2年以上と間隔が開いていることが特徴的です。
800系は導入にあたってブレーキのHRD化・ワンマン化などがなされています。でもこの工事にそれほどの時間がかかってしまうとは思えません。
実は1991年の導入当時、401系のような20m級車輌は近江鉄道線の車両限界を超えており、走らせることができなかったのです。
補助金により多賀線を除く全線に大型車が入線できるようになったのは1999年7月。なんとそれまで801Fは8年間も彦根の電留線で出番を待ち続けていたのです。
他の電車も同様です。在来車が引退するまで じっと出番が来るのを待っていたのです。前述したように811Fは2009年のデビューまで13年間冬眠していました。

上信電鉄は1992年製の151Fに続いて1996年に153.155Fを登場させています。ところが96年時点で すでに種車の401系は売り切れ つまり近江鉄道に買い占められていました。しかたなく4連であった西武の801系の中間車に運転台を取り付けるという工事を余儀なくされています。上信電鉄にしてみれば「近江鉄道が使っていないのであれば、是非401系を引き取りたい」という気持ちがあったのではと思われます。しかし近江鉄道は冷房車でありかつ2両編成で扱いやすい401系をずーっと冬眠させてきました。
貨物列車が廃止され彦根にせよ高宮にせよ電車を留置させておく場所には困らなかったという事情もあったでしょう。そこで在来車の寿命が尽きるのを待ち自社工場で少しずつ復活させる。はじめからそういう長期的視点にたって西武401系を導入したものと思われます。それが800系を15年以上の永きにわたり作り続けたわけです。

近江商人には「しまつしてきばる」という言葉があります。お金を貯めるのに「しまつ …倹約する」のは当然ですが この言葉は単なる倹約ではなく「きばる…つまり徹底してモノの効用を使い切る」ということを教えているのではないでしょうか。
近江出身の堤康二郎率いる西武は戦後徹底して旧型国電のリユース、リサイクルを行い「質より量」と後ろ指を指されながらも合理的な経営に努めてきました。
西武401系はそんな流れをうけて生まれた電車です。そして近江800系もまたかくのごとしというわけです。

さてそんな800系には801~811Fが在籍するのですが820番台(821F、822F)も存在します。
1994年版の「鉄道ピクトリアル新車年鑑」によると近江鉄道初の冷房電車である220形と同じデザインのマスクをもつ801FはMT編成(モハ800形+クハ1800形)で1993年3月に竣工したとあり、試運転中で米原-八日市間で使用される予定となっていました。ですが、その後変化はなく運転は見合わされていたようです。

八日市線の車両限界が改良され20m車の使用が開始されるのは1997年8月です。これに向けて投入されたのが820番台です。
801Fは対して820番台は西武401系のマスクをそのまま活かしたスタイルで登場しました。それだけではありません。種車と同じくMM編成(モハ800形+モハ1800形)でデビューしました。MT編成だった801F の問題点を洗い出し満を持して登場させたものです。
801F もMM編成に改められ、802F以後811Fまで800系の足回りは820番台と同じです。西武時代に戻っただけだと私は思いません。
401系は近江鉄道線にあってはオーバースペックです。だから旧801FはMT編成となったのです。820番台は目には見えない手直しがなされているに違いありません。800系を永きにわたって作り続ける基礎固めをしたのが820番台です。

ところで「新車年鑑」で800系が紹介されるのは1998年版です。4年前に導入した車両を今更ながらに掲載する例はあまりないのではないでしょうか。
ここで801Fは820番台と同様にモハ800形+モハ1800形のMMユニットに変更されていたのですが 興味深いのは ここで示された「車号一覧表」です。1993年竣工の801F、1998年竣工の802Fを取り上げていながら、どういうわけか1997年竣工の820番台をスルーしているのです。記事も同様です。
ここで筆者は冷房車の増強が必要だとされています。それなら820番台も冷房車なのだからおかしな話ですね。
加えてここで強調されていたのは1998年が近江鉄道創立100周年だということです。これを機にイメージアップする必要があったというのです。
近江初の冷房電車220形はオリジナルデザインです。対して820番台は西武401系のマスクをそのまま活かしたスタイルで車籍も西武のものを引き継いでいます。
すぐ中古車とわかるデザインではイメージアップにつながらない。つまり
近江商人がいうところの「買い手よし、売り手よし、世間よし」の「世間よし」とはならないということなのでしょうか。

800系は820番台も含め13編成26両増備され近江鉄道の主力となる系列となり近江鉄道の冷房化に貢献しました。
しかし早いもので 801Fが2017年に、803Fが2020年に、821Fが2022年に、822Fと808Fが2026年に廃車されました。
820番台は西武801系タイプの—つまりは新しい車体流用車でしたが先に姿を消しています。
影の功労者としての820番台を私はスルーしたくありません。

近江鉄道  800系 2両編成 編成表
←①貴生川、近江八幡  米原②→
801–1801 → 811–1811  Mc—Mc
821–1821   822–1822
参照 私鉄車両編成表2011年版

参考:西武401系 クモハ412+クモハ411 →811F 2005年撮影

*近江鉄道のHPでは車両を「系」ではなく「形」としています。ですが 参考文献となる鉄道ピクトリアル「関西地方のローカル鉄道」#685 2000年5月刊では「系」として取り扱い、私鉄車両編成表でも少なくとも2012年版までは「系」として記載されています。1993~2005年に竣工していますので800系としてまとめました。

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