「レトロ調インバータ電車」熊本市電 8800形 101 珍車ギャラリー#445

「レトロ調インバータ電車」熊本市電 8800形 101 珍車ギャラリー#445

路面電車というものは郷愁を感じさせるものなのでしょう。
日本全国にレトロ電車が存在します。
でも車両鉄の私としてはこれを一括りにはして欲しくないのです。
まず大きく二つに大別できると思います。
ひとつは懐古電車。もう一つは復古電車です。

復古電車

復古電車とは創業時から戦前にかけて運行されていた旧型車両をできる限り忠実に再現させようとしたものと定義しました。
歴史的古典車両が生き残っていた場合、これにふさわしい改修を施したものもこれに加えています。

1984年復元 土佐電気鉄道「維新号」7形 7


「維新号」は1984年に開業80周年記念事業として製作された7形の復元車両です。
土佐電気鉄道開業の翌年1905年(明治38年)に製造された7形を当時の姿に復元しました。
台車・機器などは旧300形321号のものを流用していますのでレプリカです。
とはいいながら こんな古典的パーツを維持していたからこそ ここまで見事な復活ができたのです。
車体は大阪車輌工業で 内装工事などは自社の知寄町工場で行いました。
現在でもイベントや貸し切りで運用され、年約30件の予約が入っているとか。

土佐電気鉄道 7形  7号 (維新号) 1984年 大阪車輌製
8.410: 2.220: 3.780  8.6 t   37 名 28 席
台車 Brill21E Brill  集電装置:ビューゲル 出力 38.2kw×2
冷房装置 なし ブレーキ SM-3 参考文献 rp688 2000.4

1984年復元 広島電鉄「大正形電車」100形 101

100形 101号は 1984年、観光キャンペーンにあわせて復元されたレトロ電車です。
ダブルルーフの車体は「維新号」と同じ大阪車輌工業で製造されました
モデルとなる旧100形は木製車体でしたが保安基準に適合させるために金属製になっています。
しかし外板には木目模様を付け縦溝を入れることで木造風にしています
内装も木目模様のアルミ化粧板を一部利用していますが、窓枠やよろい戸などは木製で再現するなど細かいところにもこだわりが感じられます
集電装置はZ型パンタですがダミーのポールも取り付けられて正面には救助網も再現されています
スゴイのは足回りです。
台車や主要機器等は1971年に廃車され県立交通公園において静態保存されていた150形157号(1925年:大正14年製)のものを整備して流用しました
なお157号は原爆投下時、爆心地から離れたところにいたので被災を免れていたものです。
S-12台車(日車製)にKR-8直接制御器、電動機はMB82-L(26kw×2)が再生されています。
土佐電同様、古典的パーツを活用できたからこその復活です。現在はイベント専用となっています。

広島電鉄100形 101 「大正形電車」 1984年 大阪車輌製
8.540: 2.310:3.883 9.7 t  45(26) 名
台車:S-12  モーター:MB82-L  26kw×2
直接制御:KR-8 ブレーキ:SM-3 参考文献 :私鉄の車輌3 広島電鉄 保育社刊

1993年改修 函館市交通局「箱館ハイカラ號」30形 39

1993年。函館市は市制施行70周年=路面電車開業80周年となる記念すべき年に「箱館ハイカラ號」の運転を開始しました。
今回はレプリカではありません。39号は1910年(明治43年)に 天野工場(後の「日本車輌製造東京支店」)で製作されたもと成宗電気軌道の車両でした。
1918年(大正7年)に 函館にやってきた39号は 1934年(昭和9年)函館の大火の際にも焼失を免れた強運の持ち主でもあります。
39号が100年を超えて生き残れたのにはもう一つ大きな理由があります。
それは 1937年(昭和12年)にササラ式除雪車に改造されたということです。
当然冬場にしか仕事はありません。実働時間が限られている分、痛みは少ないということになります。
なんと1992年(平成4年)までの55年間、39号は排雪車:排2号として働いていました。
「箱館ハイカラ號」は 当時の図面を参考にして復元されており その出来映えは素晴らしいものです。
当時の交通局及び札幌交通機械(株)の製作スタッフのこだわりが感じられます。

詳しくはこちらを→珍車ギャラリー:函館市電「箱館ハイカラ號」39

形式 30  39  1993年復元  札幌交通機械
8.026 :2.286: 3.750   10.4 t
台車 Brill21E-1:ブリル  モーター MT-60: 鳥羽  37.3kw ×2
制御装置 KR-8 :泰平 ブレーキ SM-3   参考文献 rp688 2000.4

1985年改修 長崎電気軌道 160形 168


168号は 1985年 70周年記念事業にあわせ大規模な改修工事を実施しました。
つまり復活させたのではなくそのまま再生させたものです。
168号は 九州電気軌道(西鉄北九州線の母体)が1911年(明治44年)に川崎造船所で製造した23号です。
その後西鉄福岡市内線に転属し153号と名を改め 長崎入りしたのは1959年2月です。
1973年頃まで10数年間 現役車両168号として使用されました。
62年間も働いてきたのですから廃車されてもおかしくないところですが再生されました。
現在もイベント用として保存されています。現存するものとしては最古の木造ボギー車となります。

形式 160 両数 1  168  1911年 川崎造船製 旧西鉄福岡市内線153
11.486: 2.286: 3.734  14.0 t  定員 66
台車 Brill27GE-2 ブリル モーター GE-90 GE 37.0 ×2
制御装置 RB-200B ブレーキ 直通空気.電気、手 参考文献 rp688 2000.3

1996年改修 豊橋鉄道 モ3700形 3702

3702号はもと名古屋市電1200形1204号。1927年(昭和2年)製です。
1963年に4両が豊橋鉄道に移籍し1968年にモ3700形と改められました。
1996年からは「レトロ電車」として3702がレトロ調のデザインに改められています。
日本初の半鋼製低床ボギー車である歴史的価値ある車両を維持してきた伝統を市民に伝えるためです。
残念ながら2007年に廃車。豊橋市の「こども未来館」に展示保存。

詳しくはこちらを→珍車ギャラリー:豊橋鉄道 モ3700形 3702

形式 モ3700  3702  両数1  製造初年 1927  日本車両
旧名古屋市電1200形1204  1963年導入
12.432: 2.206: 3.190  17.0 t  100名
台車 brill39-E_type 日車  モーター HS-306-E 33.6kw× 2
制御装置 DB1-K7S   ブレーキ 直通空気、電気  クーラー なし 参考文献 rp688 2000.3

懐古電車

懐古電車には特にモデルとなる車両は存在しません。
でも路面電車には長い歴史と伝統があります。
「永く市民に愛されてきたことを思い起こしてもらおうと企画された車両」と定義しました。

1993年新製 熊本市交通局 8800形 101

101号は1993年に導入されたレトロ両です。
足回りが共通であることから8800形に分類されますが 車番は8803ではなく101となっています。
まあ レトロ電車を8803とするのはちょっと無理があるかな?

さらりと書きましたが、足回りが8800形と同じということはカルダン駆動のインバータ電車だということです。
当時の最先端ではありませんか。こんなのレトロじゃないと言ってのけるのは簡単です。
しかし この101号がこれからのレトロ電車のあり方に大きな影響を与えたと私は考えています。

101号に特にモデルとなる車両はありません。
しかし塗色、デザイン等、前述の長崎168号にインスパイアされたのではないかという気がします。
マルーンの塗装にダブルルーフ風の車体でトロリーポール(ダミー)、救助網を取り付けました。
車内は木目調で 丸型の照明灯や牛革製のつり革そして真鍮製のパイプなどを使用レトロ感を醸しだしています。ぜひ乗って実感していただきたい。
両端部は絞り込んであります。急カーブを曲がる時に他の車両と接触しないようにぎりぎりの車体限界にしているからです。
そう 101号はレトロ電車としては大型で日常的にたくさんのお客様に乗車していただくことが目的となっているのです。

対して 復古電車は 車体の保存維持が大きな目的となります。
ですから走行させるのはできるだけ控え、ここ一番という機会にその存在をアピールさせればよいということになります。

 

1994年新製 京福電気鉄道 モボ21形

モボ21形は1994年に平安遷都1200年にちなんで製造されました。
ブラウンのダブルルーフ車体に26号は金の装飾帯、27号が銀の装飾帯を纏いレトロな雰囲気を再現しています。

101号と違うのはパンタグラフと足回りを旧型車であるモボ121形から流用したということ。
台車は種車流用であるイコライザー式のBWE12。もちろんツリカケ駆動です。
ただし101号同様、特にモデルとなる車両はありません。これも日常の定期運用に供されるものです。

モボ621形と同じ扱いになるのでモボ21形の車番はモボ621形の続番となっています。
(モボ621形(621~625)の下2桁の続番で26および27)

1997年新製 江ノ島電鉄 デハ10形


江ノ電10形は開業95周年記念となるレトロ電車です。
1997年に東急車輛で2両編成1本(10-50)が製造されました。
抵抗制御ですがシングルアームパンタを搭載したカルダン駆動車です。

2002、3年新製 江ノ島電鉄 デハ20形


江ノ電20形は開業100周年記念となるレトロ電車です。
2002年に(21-61)が、2003年に(22-62)が東急車輛で製造されました。
足回りは機器更新されてからの経年が浅かった旧500形のものを流用しています。
デハ10形同様、抵抗制御ですがシングルアームパンタを搭載したカルダン駆動車です。

デハ20形もデハ10形も特にモデルになる車両はありません。

2007、9年新製 都電荒川線 9000形

9000形には塗色がエンジの9001号(2007年製)とブルーの9002号(2009年製)が在籍します。
ダブルルーフ風のレトロ風ヘソ電となっていますが 中身はというとVVVFインバータ制御(IGBT)のカルダン駆動車で集電装置もシングルアームパンタグラフです。
2007年5月、荒川電車営業所で「路面電車の日」記念イベントにあわせてデビューしています。
日常の定期運用に用いられますが9000形は荒川線を活性化する使命が与えられました。
イベント対応車両でもありカラオケ機器や照明設備も用意されています。

この画像は2011年8月撮影したものです。「交通局100周年」ヘッドマークが誇らしく見えます。

まとめ

レトロとは「retrospective(レトロスペクティブ)」の略語で「古き佳きものを懐かしみ愛好すること」をさし、古さやノスタルジーを感じさせるものは広く「レトロな」と形容されます。
ただ時代が進むにつれて新しかったものもどんどん古くなるため「レトロ」の対象も広がっていくことになります。
ですから広電で活躍しているもと京都市電や被爆電車はもちろんのこと伊予鉄のモハ50形や地鉄の7000形などもこの範疇に入るというお方もおられるでしょう。
しかしレトロ電車とは意識して「古き佳き時代を造り込んだものである」と私は考えています。
レトロブームは1980年代から起こったムーブメントとされています。
確かにレトロ電車の登場と歩調が合っているような気もします。しかし「流行にのっただけ」と済まして欲しくありません。

復古電車も懐古電車もその多くがアニバーサリー記念として登場し、節目となる時には歴史を感じさせる役目を担ってきました。
今後 復古電車を登場させることは技術的にも困難であろうと思われます。
しかし懐古電車なら可能です。加えて日常的に多くの市民にアピールできるのです。
熊本市電101号はレトロ電車の新しいあり方を示した存在といえるのではないでしょうか。

最後にもうひとつ。
私は広電の101号に乗車したことがあります。
HPで運行していることを知ってこれを目当てにでかけました。
2012年の8月です。「暑い!」
何を好き好んで非冷房車に乗っているんだとお思いでしょうが、50年前はこれが当たり前なんです。
動き出すと車内にぬるーい風が吹き抜けていきます。
「これが結構、気持ちいい!」---貴重な体験をさせていただきました。
運転手さんも車掌さんも熱い思いをされていたと思います。ありがとうございます。

参考:1994年復元 京都市電N1形27

詳しくはこちらを→珍車ギャラリー:京都市電 N電 27号機

2025年現在の運行状況
土曜日・日曜日・祝日、夏休み期間(7~8月)の一部
10:00~16:00 (7~8月は17:00まで)20分おき
1日乗車券 310円 片道乗車券 150円 ※小学生未満は無料

-路面電車研究index- →鉄道車両写真集index

珍車ギャラリーカテゴリの最新記事