函館市電は1913(大正2)年6月29日に運行を開始しました。
今日で開業から112周年を迎えたことになります。
今回はそんな函館市電のなかからとっておきの珍車をご紹介します。
函館市電の7000形と8000形です。さてどちらが古いでしょう。
常識的に考えれば7000形ですよね。でも「わざわざクイズにするくらいだから 答えは8000形だ」とお思いの方。鋭いですね。その通りです。
阪急みたいに9000系まできて次に1000系というのは納得できます。
でも8000形のあとに7000形が登場!という例は他にあるのでしょうか。
それはさておき 8000形は1990年に登場しました。
さて以後どれくらいで7000形が登場したかおわかりになりますか?
実は30年後の2020年なんです。
ここでもう一度画像をご覧ください。7000形の車体と8000形のそれはほとんど同じです。
このことはとりもなおさず7000形は30年前のデザインで登場したと言うことです。
ちなみに 函館市電は1993年に2000形3000形というインバータ電車をデビューさせています。
突如先祖返りしたみたいですね。これは一体どういうわけでしょうか?
種明かしをすると7000形は旧形である710形のメカを流用したリニューアル車だからです。
とはいえ2020年ともなれば路面電車はインバータ制御の超低床LRVというのが当たり前です。
なのに7000形は抵抗制御、それも間接非自動制御という昭和のそれも戦前のメカ。
加えて なんと冷房も付いていないのです。時代錯誤も甚だしいですね。
一体どういう経緯で旧形のツリカケ駆動車が令和の時代に登場したのか。
整理して参りましょう。
710形(711~725 1959~61年:新潟鐵工所製)
1950年代の函館市電では直接制御が主流でしたが710形では間接自動制御となりました。
制御装置はNC-395A(日車製)。
五稜郭駅前線の廃線などにより1979年から廃車がすすめられ2025年現在、在籍するのは3両です。
(事故車の717は1973年廃車)
710形更新車711(1985年:国鉄五稜郭車両所で車体更新)
710形は500形に先駆けて車体更新されました。
500形更新車の2年前であることからも函館市電の旧型車をこれからどう活用してゆくかをうらなう試作車的な意味合いを持つ車両と想像されます。
車籍や車番に変更はなく711を引き継ぎ 台車および制御機器類を流用しました。
しかし711は2010年に非更新車より先に廃車されてしまいます。
流用品が501(500形更新車)より10年ほど新しいのにもかかわらずです。
やはり私には間接自動制御が問題を抱えていたように思われます。
710形にせよ500形にせよ 五稜郭工場改造の更新車が後に続くことはありませんでした。
800形(801~812 1962~65年:新潟鐵工所製)
800形の外見は710形とほとんど同じです。
違いは制御方式を間接非自動制御としたことです。制御器はNC-193(日車製)
自動化できるものをわざわざ非自動にしたわけです。
NC-193は 札幌市電220形(1959年製)にも搭載されている間接非自動制御器です。
札幌市では250形や330形などにも間接非自動制御が採用されています。
積雪があり かつ凍結から免れることのできない北国の路面電車には 手動でその時々に即応できる非自動の方が相性がよかったに違いありません。
函館でもその実績をもとにあえて旧式の間接非自動制御を導入したのです。
8000形(8001~8010 1990~2012年:アルナ工機で車体更新)
800形の機器を流用して車体更新されました。
711が1985年に車体更新された時 形式はそのままでしたが今回は新形式となりました。
今回の車体はアルナ工機製です。
アルナ工機は1980年製の岡山7000形をはじめ 広島700形、長崎1200形など 数多くの更新車を手がけています。
今回もその流れに沿うもので 各車ごと扉の位置や車体サイズに 多少の違いがありますがデザインや旧型車を再生するというコンセプトはは引き継がれています。
それにしても8000形は22年にもわたって増備されているんです。
前述しましたがこの間に 函館市電は1993年に2000形3000形というインバータLRVをそして2007年には超低床車LRV9600形さえデビューさせています
老朽化してゆく旧型車を新車で置き換えられればいうことはありません。
しかしこれらの新車はいうまでもなく高価です。
待ったなしの体質改善をやっていくには使えるものを有効利用する車体更新しかありません。
710形ではうまくいかなかった車体更新ですが、800形は実用性のある間接非自動制御です。
8000形更新車はうまくいきました。
徐々にですがその数を増やしていっているのがなによりの証拠です。
一方 711以降 更新されることがなかった間接自動制御車710形は徐々に数を減らしていました。
しかし 2020年にとうとう7000形更新車として再起することになりました。
注目すべきは間接非自動制御に変更されたことです。
今どきそんな旧式の制御器を新規に製作することはありません。
そのきっかけは札幌市が旧型車(全て間接非自動制御)を淘汰していることにあると思われます。
これらの旧型車は札幌綜合鉄工共同組合製(要は札幌市の様々なメーカー)です。
函館市電では近年、同組合を母体とする札幌交通機械に車体改修を発注しています。
(8000形の車内銘板にも同社が改修をした記述があります)
状態のいい制御器を工面することはたやすいことでしょう。
そんなわけで8000形と同じ間接非自動制御の7000形が2020年に誕生することとなったのです。
70001:もと715 2020年2月改造 撮影2024.9:函館駅前
8002:もと808 1990年12月改造 撮影1997.10:函館駅前
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