「リチウム電池で走る日本最古の電車」京都市電 N電1形27号機 珍車ギャラリー#295

「リチウム電池で走る日本最古の電車」京都市電 N電1形27号機 珍車ギャラリー#295

2025年5月、琵琶湖疎水とその関連施設が国宝となる報道がありました。
南禅寺の水路閣や蹴上の発電所など、なるほどと思える堂々たる建築物です。
ところで 当時その電力をもとに走り出した電車があります。
日本最古の電車 N電1形です。現存しています。私としてはこちらも国宝にして欲しいところです。
ところでN電のNとは何を意味するのでしょう。
答えはNarrow(狭い)の頭文字であるNです。で、何が狭いのかというとレールの幅です。
すなわちN電は狭軌路線であった北野線(=京都駅前-堀川通り経由-北野)で走っていた電車ということです。
さてこの北野線ですが創業当時は京都市営ではありませんでした。
わが国初の電気鉄道会社=京都電気鉄道が運行を開始したものです。
標準軌で路線網を築いた京都市電が狭軌の同社を吸収し結果、狭軌のまま残った北野線の車輌記号に”N”を冠して区別したということです。

北野線では1961年8月の廃止までポール集電の2軸単車であるN電1形が使用されていました。
このことはとりもなおさず、N電には新車が投入されなかったことになるわけです。
結果、京都電気鉄道の名残を残す歴史的車両が生き残ることになり多くのN電たちが、交通局のみならず、明治村や各所で保存されることになりました。

梅小路貨物駅(現在の京都貨物駅)の跡地に梅小路公園があります。平安遷都1200年を記念して作られたものです。
京都市交通局で保管されていたN電1形27号機は1994年に製造当初の状態に復元されこの梅小路公園で運転を開始しました。
当時は公園の隣にある「梅小路蒸気機関車館」の入り口近くに乗り場がありました。
2014年3月には「すざくゆめ広場」と「市電ひろば」が開園。この公園の姿も大きく変わっています。
そして現在。前述のN電27号機は「すざくゆめ広場」と「市電ひろば(8輌の京都市電を展示)」との間に新設された210mの緑地軌道に移転し ここ走行するようになりました。

2014年の夏休み。私は新装なったこの梅小路公園を訪ねました。
もちろんN電27号機に再会するためです。
でも、走行してきた27号機に、私は違和感を感じてしまいました。
まず、静かなんです。
ツリカケ駆動独特のおなかに響く「ド ウエーーン」という音がほとんど聞こえてきません。
緑地軌道というのに見慣れていないというのもあると思いますが、
電車につきものの架線がないというのもその大きな原因であろうと思われます。

そう、この公園のN電27号機。
明治時代の京都市電が運転されているというのは間違いないのですが、
客室内座席下に格納されているリチウム電池でもって走行できるよう改造を施されていたのです。

架線柱や架線が設けられていないのは景観に配慮してとのことでした。
走行音も低く抑えるべく、速度も低く設定されているのだと思われます。
永く保存するために維持管理のことも考えてそうなったのだと思われます。

もっとも終点では律儀にポール回しは行われておりかつての光景を偲ぶこともできます。
でも、ポールの先を架線にはめ込むことで集電するのがポイントなわけです。
21世紀の子供たちがこれをせずして これが「明治時代の京都市電」と思ってしまうのは少し残念な気もします。
いやいや、贅沢は申しますまい。
東京に遷都され意気消沈していた京都の町に必要なものは「電気」と田辺朔郎は琵琶湖疎水を完成させました。
その電力を活用すべく日本で初めての電車が動き始めたのです。
どういうカタチであれ京都人の希望と誇りを背負ってきた電車の動態保存は意義深いことなのです。

そういえば、N電登場当時「退いとくれやっしゃー。危のおっせー。」
と旗を振って、電車の前をひた走り、注意を呼びかける告知人がいたそうです。
まだ少年と言っていい子供たちがこんな危険な仕事に就いていたそうなんですが、
そんな歴史も伝えていってくれたらな。と思いました。

ポール集電だった当時の保存車27号機

N1-N133  高床四輪木造電動客車 133両
車体:6.604t 梅鉢鉄工所製 台車:21-E ブリル
モータ:25HP×2  直接制御 ブレーキ:水平片手把手々用
京都電氣鐵道株式会社より譲り受けたため詳細不明

参考:京都市交通局のHP

新路線の起点は市電展示室となっています。
ここはN電の車庫となると同時に広軌1形29号機の保存場所ともなっています。
建屋内は標準軌と狭軌のデュアルゲージとなっており休憩所を兼ねた館内でゆっくりと見学できます。
一方「市電ひろば」に置かれているのは505、703、890、1605の4輌。
このうち505は車内がカフェに703もオリジナルグッズ等を販売する売店に改造されています。
基本的に外観を変更していないので外から見る限りまったく違和感は感じられません。
ただ あまりお客さんがいなかったのが気がかりです。

何はともあれ、静かな夏の昼下がりでした。
現代という時代は静かであるということが当然のサービスなんですね。
時には「カン カーン」とフートゴングの音を高らかに鳴り響かせて走るときがあってもいいような気がします。

*この記事は2015年7月にUPしたものがベースとなっています。

参考文献 京都市交通局のHP 

2025年現在の運行状況
土曜日・日曜日・祝日、夏休み期間(7~8月)の一部
10:00~16:00 (7~8月は17:00まで)20分おき
1日乗車券 310円 片道乗車券 150円 ※小学生未満は無料

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