「札幌綜合鉄工共同組合製 道産子電車」札幌市電 210形 珍車ギャラリー#438

「札幌綜合鉄工共同組合製  道産子電車」札幌市電 210形 珍車ギャラリー#438

210形(211~216)は1958年 札幌綜合鉄工共同組合製。
つまり札幌市の様々なメーカー製ということです。

札幌市は戦後、地元企業を育成すべく 車両を道内の業者に製造させることにしました。
しかし北海道に車両メーカーなどはありません。まずはナニワ工機に320形(1957年製)を発注。
それを基に地元の企業で結成した「札幌綜合鉄工共同組合」に200形(1958年製)発注することにしたのです。
320形はナニワ工機が当時手がけた大阪市電2600形(同タイプの鹿児島市電600形は今も健在)とよく似たデザインです。
泰和車両、運輸工業、苗穂工業、藤屋鉄工所の4社はこれをコピーし200形を作り上げました。
電装品など旧100形単車の部品を流用していますが、遜色ない立派な仕上がりになっています。
これに自信を得たのでしょう。次に札幌市は日立製作所に330形(1958年製)を発注します。
丸みを帯びたボディーに大型の曲線ガラスを用いたマスクは当時の路面電車とはひと味違う近代的なデザインです。


330形 334号機  オリジナル塗装  1997年撮影

形式 330 (331-35) 1958年 日立製作所 製
3300形に足回りを流用し現存しません。
12.500:2.200:3.690  13.5 t  100 名
台車 TS309 東急 製 モーター NE-40  40kw ×2
制御装置 NC-193 ブレーキ SM-3   参考文献 rp593 1994.7

210形はこの330形を基に「札鉄共」が受注したものです。
今回も旧110形・120形の主要機器を流用して製造されました。
よってモータの出力は37.3kW×2と控えめです。(台車は苗穂工業製の道産台車)
とはいえ 車体は4社とも素晴らしい出来映えです。
以後、1961年納入の250形まで 4年間にわたり6形式43両が製造・納入され「札鉄共」は「札幌スタイル」を確立することになります。
しかしそんな「札幌スタイル」の電車が大きな危機を迎えることになるのです。

210形 214 (旧塗装)運輸工業製:種車 114 撮影1989年?:電車事業所前

形式 210 (211-16)  1958年 札幌綜合鉄工共同組合
12.500: 2.230: 3.675   14.4 t   100 名
台車: 道産台車 札鉄共製  モータ :37.3kw ×2
制御装置: KR-8タイプ 参考文献 rp319 1976.4

ここで札幌市電の歴史をふりかえってみます。

1909年(M42)開業の馬車鉄道をルーツとする札幌市電は1918年(T7)札幌電気軌道により路面電車の運行を始めました。
市営となったのは1927年(S2)です。
以後 札幌市は日本有数の路面電車都市となり1960年代の全盛期には25kmの路線網に5系統の電車が駆け巡っていました。
それを支えたのが200形系列であり札幌総合鉄工共同組合ということになります。
1969年の車両数は162両を数えました。

しかし、1972年の冬季オリンピックにあわせて札幌の街に地下鉄が登場することになります。
このことで札幌の交通事情は劇的に変化。
札幌市電は1系統のみの運行となり 車両数は30両あまりにまで激減するのです。

「札鉄共」の電車はいずれも昭和一桁の旧型車から電装品を再生した車両です。
対して 当時の交通局には1963年のA800形から1965年製のA830形まで13編成26両を数える連接車が在籍していました。
いずれも新車です。また改造車ではありますが60年代後半製の電車もいました。
これらの車両を一掃してしてまで210形を初めとする「札鉄共」の電車は生き残ったのです。
ちゃちな造りであれば真っ先に淘汰されたに違いありません。

330形の丸みを帯びた車体を見せられて「これと同じものを作れ」と言われたとき、
「札鉄共」のスタッフはそれこそ目を丸くして
「無理だ。もっと製作しやすい角形でいいではないか」
と思われたのではないでしょうか。しかし
「よそがやるというならうちもやる。やるならばよそには負けないぞ」
という気持ちで取り組まれたに違いありません。
そんな熱い気持ちを直に感じてきたからこそ 交通局は210形の存続を決意したと私は思うのです。

210形はその後1970~71年にワンマン化。
同時に600形や都電8000形の廃車発生品を流用して直接制御から間接非自動制御となりました。
1988~89年には車体更新されました。 前照灯の位置などに違いが見られます。
しかし そのイメージはしっかり継承されています。

210形更新車 214   撮影1994.2:創成小学校前

215・216が1989年に廃車されましたが、 214は2010年に台車をKW-181へ変更、
211、212は 2017年にZ形パンタをシングルアームに変更するなど改良が加えられています。

210形更新車 212 ST塗装  1988年12月更新 撮影2024.9:すすきの

2018年1100形「シリウス」がデビューし 213が2021年に廃車されました。
「シリウス」は アルナ車両製の超低床車「リトルダンサー」のSタイプで 伊予鉄道の5000形とよく似ています。
これが導入されることで「札幌スタイル」の電車が姿を消していくことになるのかと思うと少し寂しい気がします。
しかし 211、212、214が今なお活躍中です。

齢67歳。モータに至っては90年を超える骨董品です。
しっかりとしたメンテナンスが継承されていればこその210形といえるでしょう。
210形だけではありません。
1969年には国鉄の支援と車輌メーカーの出資を得て「札鉄共」の構成メンバーであった「苗穂工業」を母体とする「札幌交通機械」が設立されました。
発足後は国鉄→JR北海道の車輌整備をはじめ、札幌市営地下鉄(南北線、東西線、東豊線)の車輌検査を受注することになります。
道産子の面倒は自分たちでみる!技術も心意気も継承されているのです。

 

珍車ギャラリーカテゴリの最新記事