阪神電気鉄道 7890系(珍車ギャラリー#184)

阪神電気鉄道  7890系(珍車ギャラリー#184)

UR都市機構は、1986年から2020年6月まで阪神武庫川線で活躍した「赤胴車」7890号を武庫川団地内の「地域のコミュニティスペース『赤胴車』」として保存することになりました。
7月 10日にはオープニングセレモニーが開催されました。
「赤胴車」7890は、
34年も武庫川線で働き続けたのですね。まさにヌシ的存在ですが、彼女には阪神の歴史を背負ってきたという出生の秘密があります。

 

赤胴車

阪神では、長らく急行系車両(=赤胴車)について、4両+2両の構成で運行されて来ました。
たとえば、7000系や7700系といったチョッパ電車に78-79系と呼ばれる2両編成の車両をくっつけて走らせるというものです。
阪神ではハイ&ローミックスという考え方が強くあったのでしょう。
チョッパ電車という高価な車両を投入するかたわら、輸送力を補完するという目的で造られた78-79系、なかでも初期型は、経済性が重視されました。
経済性重視といえば聞こえはいいですが、要はその車両にお金をかけないということです。
その違いは見た目にもはっきりと分かります。
車体はスクエアで、角のRもとことん省略されています。また畳んだ連結幌を収納するへこみがありません。雨樋も外側に露出した状態です。
車内に目を向けても、蛍光灯カバーが省略されておりそのままとなっています。

阪急電鉄が、その車体と車内について基本的に2000系のデザインを踏襲し、イメージの統一を図ったのとは対照的です。
(鉄道ファンではない)友人達にいわせれば、阪神は雑多な車両を寄せ集めた下町の電車と映っていたようです。
(阪神なんば線開業以後はそういう傾向はなくなってきたように思いますが、)
もっとも車両マニアである私にしてみれば、いろんな意味でバラエティーに富む阪神電車は実に魅力的です。
梅田から神戸方面へ行く場合には、まず一番に阪神を選ぶほどなのです。

さて今回ご紹介する7890-7990は、78-79系の一族です。
その雑多な…もとい多彩な阪神電車のなかでも最もバラエティーに富んだものである78-79系の中でも極めつけの個性派です。


7890-7990をご紹介する前に、彼らの活躍場所である武庫川線についてお話ししたいと思います。

阪神 武庫川線

武庫川線は、現在、武庫川団地となっている西宮市高須町にあった軍需工場への従業員および資材輸送のために建設された路線です。
かつて、国鉄甲子園口駅までレールが繋がっていて貨物列車が乗り入れていたのです。
(東海道線からその名残りである道床を見ることができます。
もっとも国鉄は1067mm、阪神は1435mm軌間ですから、武庫川駅以南は3線軌条となっていました。)
いつしか貨物もなくなり、以後、武庫川べりの単線区間を3300形などの単行用車両がのーんびり往復していました。
終点だった州崎駅のあたりでは結構ハゼが釣れたので、武庫川線を利用して出かけましたが、本数が少ないので閉口した記憶があります。

そんな武庫川線にも転機が訪れました。大規模な団地ができたのです。
1984年4月。阪神電鉄は州崎から武庫川団地まで0.6kmを延伸、東鳴尾には交換施設を設け朝夕のラッシュ時に対応できるようにしました。
車両も2両編成に増強しました。
各停しか走らないこともあって、ジェットカーを投入するのかなと思っていたら、投入されたのは赤胴車の78-79系でした。
ただ78-79系には、ほとんど片側しか運転台がついていないので、武庫川線には、双方に運転台がついた7860-7960形が投入されました。
数的には2編成あれば足りるので、これでやりくりするのかなと思ったら、阪神では、新たに7890-7990を追加することになりました。
まあ、思えば7860形は、もともと、武庫川線用に造られたわけではありません。
武庫川線用に2両編成を追加するのはもっともなことです。

しかし、この7890-7990。ハンパな車ではないのです。
この車両がどのようにして生まれたのか。お聞き下さい。


3800系という異端車

阪神3800系 3901

実はこの電車。
西大阪線の難波延伸を視野に入れて製造された車輌である3801形を組み替えて誕生した形式です。
ご存じのとおり西大阪線が、阪神なんば線と名を変えて難波延伸を果たしたのは、2009年3月のことです。
1962年製の3801形は、阪神本線で使用されることになります。
3編成あった4連の3801形ですが、他の赤胴車と出力が異なっていたため使い勝手が悪く、6連に組み替えられることになりました。8700系の誕生です。

しかし、数的には2編成組めるはずなのですが、第1編成は、廃車となり、残った2編成8両を6連(8700系)と2連(7890系)に組み替えたのです。

旧3800系  4連×2
神戸 ◇  ◇ ◇  ◇ 梅田
3906 3806 3805 3905 3904 3804 3803 3903
Tc M’ M Tc Tc M’ Tc

 

阪神 8700系 8901

8800系  6連
神戸 ◇  ◇ 梅田
8902 8702 8802 8701 8801 8901
Tc2 M’ Tc1

*8802と8701は簡易運転台付きに改造,

7890系  2連
武庫川 武庫川団地
7990 7890
Tc2 Mc2

*3904+3905=7890+7990に改造。(左の図)

武庫川線スペシャルの誕生

さて上の編成表を見ていただければ一目瞭然ですが、7890系に改造されたのは3901形というTc車です。
このままでは動けませんから、モーターは廃車となった3801のTDK-8140-Aを取り付けました。
こうして新形式の7890形7890が登場したのです。
ただ、制御器はMM方式(1C8M)である三菱製ABFM-138-15-MDHAを改造して1M方式(1C4M)で使うという荒技を用いました。
4個のモーターを永久直列にしたということですから、モーター1個あたりの電圧は半減したということになるのでしょうか。
詳しいことは分かりませんが最高速度は45km/hにまで引き下げられました。
というわけで、武庫川線で使うには十分ですが、このパワーでは、到底急行用として本線を走行することはできません。
なりゆきで、急行用の姿(赤胴車)とはなりましたが、7860形と違って、彼らは完全な武庫川線スペシャルなのです。

とはいえ、武庫川駅のホームで客待ちをしていた彼らは、8800系となった仲間たちが颯爽と本線を駆け抜けてゆくのを悔しい思いで眺めていたに違いありません。
しかし8800系は、阪神なんば線の開業を目前に控えた2009年2月その姿を消してしまいました。
そして、78-79系も同年7月姿を消し、7860形+7960形でさえ今や本線でその姿を見ることはできません。

武庫川線という働き場所があったればこそ、彼らは生き長らえることができたのです。

-鉄道車両写真集-
  阪神 7800系 7801形-7901形 7860形-7960形 7890形-7990形  8000系-1 8000系-2(珍編成)
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参考文献;鉄道ピクトリアル 「特集 阪神電気鉄道」の各号

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