阪神電気鉄道 5550系(珍車ギャラリー#363)

阪神電気鉄道 5550系(珍車ギャラリー#363)

6月5日に放映されるBSフジ「鉄道伝説」で 阪神ジェットカーが特集されます。
私がUPした阪神5108、5215の画像を使っていただけるということで楽しみにしています。
5101形も5201形もジェットカーの中では短命なものですから、画像が少なく,私にお声がかかったものだと思われます。
思えば、5101形は新性能車でありながら両運転台です。
大手私鉄の中で、両運転台の新性能車は、あと同じく阪神の3301形くらいのものではないでしょうか。
(事業用車や路面電車は除く)
そうだ。次回の珍車ギャラリーは阪神5101形でいこう。と思います。

それはさておき、今日はこれを機に当J鉄局の珍車ギャラリーで2019年2月にUPした阪神5550系をご紹介したいと思います。

 

阪神5550系は2010年12月に営業運転を開始しました。
普通列車用「ジェットカー」です。

その出で立ちから、またその数字からも5500系のマイナーチェンジ版とも推察できるのですが。
その中身は、大きく変化しており、私としては別系列として扱ってしかるべきでは、と思っています。

なぜならジェットカーは高加減速性能を高めるためずっとオールM編成で組成されてきました。
ところが5550系では5562をTc としたのです。
なぜ5550系にTc車を導入したのでしょうか。

5500系

先に5500系について、お話しします。
5500系は1995年に登場した阪神初となるGTO-VVVFインバータ制御車です。
「アレグロブルー」「シルキーグレイ」のツートンカラーの車体で、
普通列車用の車両として「青」がベースの出で立ちです。

さて、5500系が登場した1995年は、阪神にとって特別な年です。
そう。阪神・淡路大震災です。軌道はグニャグニャ、石屋川にある車両基地も崩壊、
被災した車両は全体の1/3におよびました。
車両についても懸命の復旧作業をおこなったのですが、それでも33両もの廃車が出てしまう
という結果になりました。

5500系は、この代替車両として登場しました。
ちなみに急行用車両には9000系ステンレスカーが導入されています。
ところで、阪神では自前の車輌製造会社である武庫川車両で車両を増備してきました。
阪急におけるアルナ工機のようなものですが、東武鉄道にも多くの車両を供給してきたアルナ工機と違って、武庫川車両は、他社への車両供給は少なく、わずかに叡山電鉄などに見られるくらいです。
ですから、一気に33両もの新車を製造できるだけの能力はありません。
同じ兵庫県の車両メーカーである川崎重工に白羽の矢が当たりました。
9000系がステンレスカーなのは、川崎重工がステンレス車体を得意としてきたからです。

対して普通列車用の5500系ですが、こちらはスチール製です。
武庫川車両と川崎重工で分担して製造することになりました。
2000年までに(4連×9=36両)製造されました。

阪神5500系 5513F

Tc車を組み込んだ5550系

その後継車両となるのが5550系なのですが、10年の歳月が流れているのですね。
見た目そう変わらないように見えます。
他の「ジェットカー」と同様、加速度4.0km/h/s、減速度4.5km/h/sで運用も共通です。
しかし、マイナーチェンジとは思えない大きな変化があるのです。

5000系(初代)以来、ジェットカーは高加減速性能を高めるためずっとオールM編成で組成されてきました。
それを5550系では3M1T編成(Mc-M1-M2-Tc) としたのです。

5550系にTc車を導入したのは1000系と装備品を共通化したためです。
主電動機は1000系と同じく東洋製TDK-6147-A(出力170kW)を採用しました。
5500系のTDK-6145-Aより出力をUPしたため、3M1Tが可能となったわけです。
制御装置は三菱製MAP-174-15V163B(1C4M方式)を各電動車に搭載しました。
歯車比は1000系と同一の6.06。設計最高速度も同じく110km/hです。
パンタグラフがシングルアーム式になったのも1000系と同じですね。
台車も住金製のモノリンク式ボルスタレス台車(M車:SS171M、T車:SS171T)です。

ちなみに、1000系はというと、これ近車製です。
なぜかおわかりですね。
1000系は、阪神なんば線へ乗り入れ、そこから近鉄奈良線に乗り入れる為に開発、製造された系列だからです。
1000系は6連×11本 + 2連×9本=84両という大所帯です。
ステンレスカーということもあって、武庫川車両ではなく、新たなパートナーとなる近鉄の意向も踏まえ近車に発注したのです。

そして、普通列車用の新車である5550系は、スチール製でもあり武庫川車両で製作することにした。
と いいたいところなのですが、違います。
1000系のパーツを多用するというのですから近車製なら、まだ納得できます。それも違います。
なんと5550系は「アルナ車両」製なのです。

アルナ車両

いったいどうして「アルナ車両」製なのでしょうか?。
冒頭、阪急系列である「アルナ工機」は、東武鉄道にも多くの車両を供給してきた。
とさりげなく紹介しました。
「アルナ工機」と「アルナ車両」は一緒ではないので、この際、ざっと整理してみます。
1947年に設立した「ナニワ工機」は1970年に「アルナ工機」とその名を改めました。
その後6300系など阪急の名車をこの世に送り出してきた技術力のある車両メーカーです。
しかし、1990年代から東武鉄道のみならず、親会社の阪急電鉄まで新車の発注を手控えてしまうことになるのです。
右肩上がりだった乗客数に陰りが出てきたことに加え、やはりバブルの崩壊に伴う景気の低迷もその一因ではと思われます。

結果、「アルナ工機」は車両部門の一部を継承する会社として「アルナ車両」を設立しました。
しかし設立当初の「アルナ車両」は阪急の車両であってさえ「日立」製の車体(Aトレイン)に電装品などを艤装するにとどまり、
車両メーカーとしての かつての栄光は 失われていました。

歴史のうねりはとどまることがありません。
2005年 阪神に対する村上ファンドの株式買い付けが契機となり、2006年 阪神は、阪急と経営統合、阪急阪神東宝グループの一員となります。

せっかく経営統合したのだから、そのメリットを最大限生かしたい。
阪神5550系が「アルナ車両」に発注されたのにはそういう意図があったに違いありません。
でも阪神なんば線開業に伴う阪神の大量発注はもうおしまい。
一旦、車体製造から手を引いた「アルナ車両」を蘇生するだけの力はなかったようです。
結果、「アルナ車両」製 阪神電車はこの一編成のみ…。

5562形?

ジェットカー初のTcは5562形です。
どうしてこんな奇妙な形式となったのでしょう。
5500系(Mc1-M2-M1-Mc2)では、中間車に5601形があてがわれています。
阪神は元町側ユニットに偶数を配置するルールです。よって、

5501F:5501-5601-5602-5502 となります。

5550系はといいますと
5551F:5551-5651-5652-5562 です。

もしオールM編成なら元町側は5552ですね。
T車なので50番台ではなく60番台を附したのですが、5561は欠番なので、初号機に合わせ5562形としたというわけです。
しかし8000系や1000系の例に従えば、5700番台をTc車にあてがうのが筋です。
でもそうはならなかったのは、5550系を量産する気はなかったということのようです。
5700番台は次世代のジェットカーに空けておこうという意識があったのではないでしょうか。

ここで5550系の存在意義を考えてみたいと思います。

駅間距離が極端に短い阪神本線での各駅停車は、急行列車に道を譲るため 待避線のある駅まで、いかに速く逃げ切るかが勝負となります。
最高速度はあまり意味がありません。
つまり、高加速、高減速こそが求められるのです。
普通列車用車両が「ジェットカー」と呼ばれるゆえんです。
よって、すべての「ジェットカー」は加速度4.0km/h/s、減速度4.5km/h/sで
急行用車両の加速度3.0km/h/s、減速度4.0km/h/sを上回るスペックとなっています。

最近の電車といえば本当に高性能です。
その足回りは、各駅停車から特急まで何でもこなせるのがあたりまえです。
今どき、大手私鉄で各駅停車専用の新車を導入しているのは阪神だけです。

阪神なんば線でも、例に漏れず、1000系、9000系が快速急行から普通列車までこなします。
ジェットカーは入線しません。(西大阪線時代には実績あり)

1000系は3M3Tの6連と1M1Tの2連で構成されます。
(MT比1:1)
これを3M1Tの4連に組み替えれば、いかな阪神本線でもそのまま普通列車用として使えるような気がします。
5550系は前述したように、ジェットカー初の3M1T編成で、1000系と主電動機も同じです。
そう…ステンレス車体にブルー帯の1000系があってもおかしくなかった。

しかし、阪神は5500系から15年の年月を経て、なお5550系「ジェットカー」をデビューさせたのです。
そしてジェットカーの歴史は、2015年製の5700系に引き継がれることになります。
たった1編成ではありますが、ジェットカーを引き継いだ5550系がなければ、5700系「ジェットシルバー」は誕生せず、
ブルー帯の1000系がこれに取って代わったように思います。
いや、ブルー帯どころか、阪神からも普通列車専用車両が姿を消すようなことになったかもしれません。
5550系は阪神電車の車両史に大きな意味を持つものです。

とりもなおさず、普通列車専用車両「ジェットカー」の歴史は引き継がれました。
そしてその歴史が5700系のブルーリボン賞として認められることになるのです。

初出;2019年2月11日

参考文献(鉄道ピクトリアル 2011年10月号 #855,
「鉄道車両年鑑」P181~182)

-鉄道車両写真集-
阪神 5500系 リノベーション車  5550系
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